M-1史上最も偉大なコンビは? 放送作家が選ぶ伝説の漫才(4)奇跡の超高得点…センスが凝縮された伝説のネタ
2001年にスタートした、もっとも面白い漫才師を決める大会・M-1グランプリ。幅広い層から注目を集め、今や国民的イベントと呼んでもおかしくないほどの盛り上がりをみせている。今回は若手放送作家が歴代チャンプの中から「M-1史上最高の漫才コンビ」5組をセレクト。それぞれの漫才の魅力を映画にたとえて解説する。第4回。(文・前田知礼)
ミルクボーイ(M-1グランプリ2019王者)
メンバー:駒場孝(ボケ)内海崇(ツッコミ) 所属:吉本興業 コンビ結成年:2007年 ●【注目ポイント】 「人の力と言葉の力と、センスが凝縮されてたので、ほぼ100点に近い99点です」 ミルクボーイの「コーンフレーク」のネタ見たナイツ塙は言った。小太りの角刈りとマッチョ。そんな風貌の2人が、自分のオカンが思い出せない朝ごはんが「コーンフレークか、そうでないか」をひたすらに議論している。 声量や滑舌、抑揚のつけ方、あえて笑い待ちをせず観客のウケを持続させるという戦法など、項目にどんな要素が入っても正五角形になるような完璧な漫才を披露し、大会史上最高得点の681点を叩き出した。 翌年、SNSには結婚式の余興や文化祭でミルクボーイのパロディ漫才を一般の方が披露する様子が多数投稿されたのは、行ったり来たり漫才のシステムの強さあってこそだと思う。 ●【ミルクボーイの漫才を映画にたとえるなら】 『ぼけますから、よろしくお願いします』(2018) 製作国:日本 ジャンル:ドキュメンタリー 上映時間:102分 監督: 信友直子 「オカンが朝ごはんの名前を忘れる」ところから始まるミルクボーイの漫才だが、この映画が映し出すのは「朝ごはんを食べたことを忘れてしまうオカン」だ。広島県呉市の一軒家に住む認知症になったオカンと耳の遠い年上のオトン。『ぼけますから、よろしくお願いします。』は、そんな老老介護の現実に、娘である監督自らがカメラを向けたドキュメンタリー映画だ。 ミルクボーイの漫才が「行ったり来たり漫才」ならば、この映画は「行ったり来たりドキュメンタリー」と言えるだろう。監督の信友直子はカメラを持ったディレクターであり、オカンの娘でもある。ドキュメンタリーディレクターと認知症の身内を支える娘、この2つの異なる立場を行ったり来たりしながら、被写体兼オカンにカメラを向ける。 監督としては、「(老老介護の現状を伝える上で)欲しい映像」かもしれないが、娘としては「今すぐにでも手を差し伸べたい状態」。監督の「ここは監督目線やろ」「ほな監督目線と違うか」と揺らぐ心が、カメラに見え隠れしているのだ。 このようにシリアスな内容であることは間違いないが、公開時のポレポレ東中野の劇場内には時折笑いが起きていた。 母「もう昼?」父「なんじゃ?」母「お昼ですか?」父「オリーブ?」のくだりや、「どしてかね、どして分からんようになっとるんかね」と娘に悩みを話すオカンの後ろで、オトンの謎の鼻歌「♪ちょっちょりんこ、ちょっちょりんこ~」が響くシーンなど、家族ならではのふとした会話がどこかおかしく愛おしいのだ。 ミルクボーイの内海と駒場の関係は、信友監督とオトンの関係性に近い。「ほな、コーンフレークやないか」「ほな、コーンフレーク違うか」のように、オカンが伝えたいことを理解しようと話し合う。上手く言葉がでないオカンの真意を汲み取ろうと努力する姿勢にグッとくる。 タイトルとなっている『ぼけますから、よろしくお願いします。』は、新年の挨拶でオカンが言った言葉だ。認知症を自虐したギャグに、娘やオトンからは笑いがこぼれる。どんな状況だろうと笑いは人を救う。救うといっても気持ちが楽になる程度で、ほんの傘増しにしかならないのかもしれない。そういう意味なら、パフェの下のコーンフレークも悪くない。 【著者プロフィール】 前田 知礼(まえだ とものり)。1998年広島県生まれ。2021年に日本大学芸術学部放送学科を卒業。制作会社での助監督を経て書いたnote「『古畑任三郎vs霜降り明星』の脚本を全部書く」がきっかけで放送作家に。現在はダウ90000、マリマリマリーの構成スタッフとして活動。ドラマ「僕たちの校内放送」(フジテレビ)の脚本や、「推しといつまでも」(MBS)の構成を担当。趣味として、Instagramのストーリーズ機能で映画の感想をまとめている。
前田知礼