「Xに投稿したイラストが勝手にAI学習に利用される?」Xの規約変更にともなう懸念について弁護士・桶田大介氏の見解が話題に。電ファミではより詳細な“検討資料”をあわせて特別掲載
11月14日(木)に弁護士の桶田大介氏より、X(旧Twitter)の規約変更に関する説明資料が公開され、話題を呼んでいる。なお、この資料は白泉社の依頼に基づき桶田氏が作成したものであり、白泉社の許可を受けたうえでSNS上に掲載されているとのこと。 『AI』画像・動画ギャラリー 近日、X上では11月15日(金)の規約変更により、「Xに投稿した画像や動画が、投稿者の意思に関わりなくAI学習に利用できることになる」、「生成AIによって自分の画風を模倣したイラストや画像が勝手に作られることに歯止めが利かなくなってしまう」といった懸念が強まってきていた。 このたび電ファミニコゲーマー編集部では桶田氏より、こちらの投稿と、投稿にいたるまでに作られた、さらに詳細な検討資料を特別に掲載する許可をいただいた。以下、それらとなる。 2024年10月21日 X(旧Twitter) 2024年11月15日付利用規約とプライバシーポリシーの変更に関する検討メモ 弁護士 桶田大介 1. 本書の目的 X社(旧Twitter社)が2024年10月16日に発表したXの利用規約及びプライバシーポリシーの変更に伴い、SNS上で「新しい規約等が適用される2024年11月15日以降は、①Xに投稿したイラストや画像は、投稿者の意思に関わりなくAIの学習に利用できることになる。②生成AIで自分の画風を模倣したイラストや画像が勝手に作られることに歯止めがかけられなくなってしまう。」等の懸念(以下、①を「本懸念①」、②を「本懸念②」といい、両者を合わせて単に「本懸念」といいます。)が拡がっています。 本書の目的は「新旧の利用規約及びプライバシーポリシーを比較し、本懸念が合理的根拠を伴う相当なものか否かを明らかにする」こととします。 なお、本書における用語の定義は、専ら次のとおりとします。 現行規約:2023年9月29日より有効なXのサービス利用規約 新規約:2024年10月16日に発表された同年11月15日から有効なXのサービス利用規約 現行プラポリ:2023年9月29日より有効なXのプライバシーポリシー 新プラポリ:2024年10月16日に発表された同年11月15日から有効なXのプライバシーポリシー 2.結論 本懸念①は、一定の限度で妥当なものと考えます。 本懸念②は、利用規約及びプライバシーポリシーに新旧で本質的な違いはなく、妥当でないものと考えます。但し、本懸念が現実のものとならないためには、XのGrokに関する設定をオプトアウト(※)する必要があります。 ※「設定」>「プライバシーと安全」>「データ共有とカスタマイズ」>「Grok」>「ポストに加えて、Grokでのやり取り、インプット、結果をトレーニングと調整に利用することを許可します」をオフにする。 3.理由 前項記載の結論に至った理由は、以下記載のとおりです。 3.1利用規約に関する検討 本書第4項に記載した利用規約に関する主な変更点のうち、本懸念に関連する変更点は第3項(本書第4.1項)のみであると考えられます。 利用規約第3項は、ユーザー(Xの利用者)がXに投稿したイラストや画像等のコンテンツについて、X社にどのような権利が認められるかを定めています。 現行規約によりX社に許諾される権利は、大別して①Xを通じた配信に必要な権利と②Xの宣伝や改善に必要な権利の2つから構成され、①②の各権利には、目的に必要な限度でコンテンツを第三者に提供する権利が含まれています。 これに対し、新規約では、②の権利に「生成型か他のタイプかを問わず、当社の機械学習や人工知能モデルへの使用やトレーニングなど」が含まれることが明記されました。なお、この追記に基づくAIに関する使用は、あくまで“X社がXを提供、促進又は改善する権利”の範囲で、X社によるX社のAI等に関する使用に限定されています。 そもそも、②の権利が及ぶ範囲は相当広く、現行規約のままでも、X社はXに投稿されたコンテンツについて、本懸念①に該当する利用を行うことはできたと考えられます。事実、現行プラポリ(第2.1項【※1】)は、X社がそのような利用を行うことを明示しています。また、文化庁が本年3月に示した「AIと著作権に関する考え方について」【※2】にも記載のとおり、コンテンツ(著作物)のこのような利用は、日本国の著作権法との関係でも原則、適法と考えられます。他方、X社によるコンテンツの利用は「“X社がXを提供、促進又は改善する権利”の範囲で、X社によるX社のAI等に関する使用に限定」されているため、本懸念②が想定するような利用を認めるものであるということはできないものと考えられます。 以上より、利用規約の変更との関連では、本懸念①については「新規約により新たに生じた事態ではないが、そもそも本懸念①は“X社がXを提供、促進又は改善する権利”の範囲内という限度において、現行規約でも事実であった」という意味において、「一定の限度で妥当」であると考えられます。他方、本懸念②については、現行規約と新規約のいずれも、本懸念②が想定するような利用を認めるものではないと考えられます。 なお、新規約第3項には「当社のコンテンツ利用規約に従い、サービスにまたはサービスを通じて送信されたコンテンツを他の企業、組織、または個人が利用できるようにする権利」が追記されています。この点に関する検討は、後述するプライバシーポリシー第3.2項において行います。 ※1「当社はまた、本ポリシーで概説されている目的のため、当社が収集した情報や一般公開された情報を、機械学習または人工知能モデルのトレーニングに使用することがあります。」 ※2 3.2.プライバシーポリシーに関する検討 本書第5項に記載したプライバシーポリシーに関する主な変更点のうち、本懸念に関連する変更点は第3.2項(本書第5.1項)のみであると考えられます。 プライバシーポリシー第3.2項は、ユーザー(Xの利用者)に関する情報や、ユーザーがXに投稿したイラストや画像等のコンテンツについて、X社が、X社以外の第三者に対して、どのような場合にこれらの情報やコンテンツを提供でき、提供を受けた第三者が提供された情報やコンテンツをどのように利用できるかについて定めています。 新プラポリで追記された「第三者の協力会社」という項目は、第1文と第2文の2文から構成されています。第1文は、X社が「お客様の情報」を第三者に提供できる場合を定めています。なお、「お客様の情報」という文言は、利用規約とプライバシーポリシーのいずれにも定義がありません。しかし、「お客様の情報」には、ユーザーがXに投稿したコンテンツを含まれると解釈する余地があるため、本書における検討は、「お客様の情報」には「ユーザーがXに投稿したコンテンツも含まれる」ものとして行います。又、プライバシーポリシーでは、ユーザーに関して「ユーザー」と「お客様」という2種類の文言が使用されています。しかし、プライバシーポリシーの原文と思われる英文では、いずれも「you」と表記されていることから本来、「ユーザー」と「お客様」は同一であり、両文言の使い分けに特段の意図はなく、誤訳であるように思われます。 第1文が、X社による「お客様の情報」の第三者への提供を認めているのは、“ユーザーが設定した場合”又は“ユーザーが共有している場合”の2つです。一般的なXのユーザーがこれらの場合に該当し得るのは、Xの設定に含まれる“xAI社の提供するAI「Grok」へのデータ提供を行うか否か”に関する設定のみであると考えられます。Grokに関する設定は、初期状態において「データ提供を行う」とされています。Grokへのデータ提供を行わない(オプトアウト)するには、ユーザーが自らのXアカウントに関してそのように設定することが必要です。 第2文は、第1文を受けて“ユーザーがオプトアウトしない場合「お客様の情報」を受け取った第三者は、AI学習利用を含めた独自の目的に「お客様の情報」を利用できる”としています。 以上より、プライバシーポリシーとの関連では、本懸念①については「XのGrokに関する設定が初期状態で“可”とされているという意味では妥当する。しかし、ユーザーは当該設定を“不可”とすることにより、自らがXに投稿したコンテンツの第三者への提供と第三者によるAIへの利用を阻止できる」ことから、一定の限度で妥当すると考えられます。他方、本懸念②については、新プラポリの下でも「XのGrokに関する設定を“不可”とすることにより、ユーザーは自らがXに投稿したコンテンツの生成AI等への利用を阻止できる」という意味において、相当でないと考えます。 3.3.備考 利用規約、プライバシーポリシーは、Xの利用に関するX社とユーザー間の法的合意を構成するものであり、これらの効力が及ぶ範囲は原則、X社とユーザーに限定されます。X社が利用規約、プライバシーポリシーで繰り返し述べているとおり、ユーザーがXに投稿したコンテンツは原則、インターネットを通じて公開されています。そのため、第三者が自ら法的リスクを冒してXに投稿された第三者のコンテンツを収集し、生成AI等のトレーニングに利用することは可能です。Xに限らず、データが取得可能なインターネットを通じてコンテンツを公開するということは、それ自体が一定のリスクを伴うものであるという認識を持つ必要があると考えます。 4.利用規約 4.1.第3項(本サービス上のコンテンツ) 4.1.1.ユーザーの権利およびコンテンツに対する権利の許諾 内容が詳細化され、AIに関する記述が追記されました。新旧の対象は、別紙1に記載のとおりです。 4.2.第4項(本サービスの利用) 4.2.1.ユーザーアカウント 2要素認証の使用など、ユーザーがユーザー自身のアカウント保護をより厳しくすることを求める内容が追記されました。 4.2.2.本サービスを利用するためのユーザーライセンス ユーザーによるアカウントの譲渡等は、原則禁止である旨が追記されました。 4.3.第5項(免責事項および責任の制限) 4.3.1.損害賠償金 損害賠償に関する定めが新設。24時間以内100万件を超えるアクセスに対する1万5千米ドルの損害賠償の予定等が定められました。 4.4.第6項(全般) ユーザーとXとの間におけるこの規約に関する法的紛争は、事実の発生から1年内に提起される必要がある等の定めが新設されました。 5.プライバシーポリシー 5.1.第3.2項(サードパーティおよびサードパーティ統合) 以下が追記されました。 第三者の協力会社: お客様の設定に応じて、またはお客様がデータを共有している場合、当社はお客様の情報を第三者と共有したり、第三者に開示したりすることがあります。オプトアウトしない場合、情報の受信者は、Xのプライバシーポリシーに記載されている目的に加えて、たとえば、生成型か他のタイプかを問わず、人工知能モデルのトレーニングなど、独自の独立した目的のために情報を使用する場合があります。 Third-party collaborators. Depending on your settings, or if you decide to share your data, we may share or disclose your information with third parties. If you do not opt out, in some instances the recipients of the information may use it for their own independent purposes in addition to those stated in X’s Privacy Policy, including, for example, to train their artificial intelligence models, whether generative or otherwise. 5.2.第3.3項(危害の防止または公共の利益のため法律が定める場合) 以下が追記されました。 当社は、規制要件の遵守、安全性、セキュリティ、詐欺行為、顧客確認、事業確認、および本人確認のために、さまざまなシグナルとお客様のデータを使用して、お客様の年齢や身元情報を推測、保存、使用、共有、または開示する場合もあります。これらの目的のために、当社はお客様の年齢や身元情報を当社のパートナー、サービスプロバイダー、その他と共有または開示する場合もあります。 5.3.第4項(情報の保存期間) 内容が大幅に詳細化されました。新旧の対象は、別紙2に記載のとおりです。 5.4.第5項(コントロールの遂行) 5.4.1第5.3項(反対、制限または同意の撤回) 以下が削除されました。 Xは、Digital Advertising Alliance(DAA)のSelf-Regulatory Principles for Online Behavioral Advertising(オンラインターゲティング広告(「興味・関心に基づく広告」とも呼ばれます)のための自主規制原則)を遵守し、でユーザーが興味・関心に基づく広告をオプトアウトできるDAAの消費者選択ツールを尊重します。 5.5.第7項(Xの利用対象者) 以下が追記されました。 当社は方針として、13歳未満の児童からは個人情報を収集しておりません。お子様が許可なく当社に個人情報を提供したことが判明した場合には、こちらまでご連絡ください。13歳未満の子供が当社に個人情報を提供したことが判明した場合、当社はその情報を削除し、子供のアカウントを終了する措置を講じます。保護者とティーン向けの追加リソースは こちらでご覧いただけます。 以上 桶田氏の見解によれば、まず規約の変更前からXには「当社はまた、本ポリシーで概説されている目的のため、当社が収集した情報や一般公開された情報を、機械学習または人工知能モデルのトレーニングに使用することがあります。」(プライバシーポリシー第2.1項)がある。つまり、投稿者の意思に関わらず、投稿されたコンテンツをAI学習に使用し、Xのサービス向上などに限って用いることはもともと可能であったということだ。 その一方、上述したような懸念に関する変更点はプライバシーポリシーの第3.2項に追加された「第三者の協力会社」にあるとのこと。変更後の規約では、ユーザーが設定した場合、あるいはユーザーが共有している場合、X社はユーザーコンテンツを第三者に提供でき、第三者は「ユーザーがオプトアウトしない場合」、提供されたユーザーコンテンツをAI学習利用をふくめた独自の目的に利用できるという。 そのため、ユーザーが自分の投稿したコンテンツを第三者に提供しない設定をする(オプトアウト)ことにより、新しい規約でも変更前と同じ条件でXを利用できると桶田氏は説明している。 今回、このような検討と調査、またそれを広くSNS上でシェアするにいたった背景には、AI生成に対するコンテンツホルダー側の懸念や危機意識に加えて、様々な情報や意見が飛び交う混乱した状況への憂慮があったようだ。実際、他の出版社ではあるが、幻冬舎では規約変更にともなって「作家様のイラストを使用したものにはAI学習阻害処理やウォーターマーク等の加工」をかけた上で投稿する方針を示すといった事例も見られる。 最後になりましたが、本記事の作成にあたり、情報公開を許可してくださった白泉社様、ならびに桶田氏に深くお礼申し上げます。ありがとうございました。
電ファミニコゲーマー:TAITAI,久田晴
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