異色作「マクロス7」を構築するチャレンジングな試み&底流にある重厚なテーマがファンの大人の心をくすぐる
アニメ「マクロス7」が7月10日にディズニープラスのスターで配信された。同作は、SFロボットアニメの金字塔「超時空要塞マクロス」(1982年、TBS系)の世界設定を継承し、当時11年ぶりに制作されたもの。前作から35年後を舞台に、謎の敵の襲撃を受けた超長距離移民船団「マクロス7」で、歌に全てを懸けるロックバンドのボーカリストが自分の歌を伝えようと奮闘する姿を描いている。(以下、ネタバレを含みます) 【写真】ファイアーバルキリーの中でギターをかき鳴らす熱気バサラがエモい! ■熱気バサラが“歌”を武器に戦場へ 西暦2045年、新マクロス級7番艦「マクロス7」を中核とする第37次超距離移民船団は移民惑星を求め銀河を旅していた。ある日、船団は正体不明の敵「バロータ軍」に襲撃される。彼らに「スピリチア」と呼ばれる生命エネルギーを奪われると、生きる気力を失ってしまい、果ては生命活動を脅かされてしまう。 そんな中、ロックバンド「Fire Bomber」のボーカリスト・熱気バサラ(CV:神奈延年、歌:福山芳樹)は可変戦闘機「ファイアーバルキリー」で戦場に向かい、戦うことなく歌を歌い続ける。統合軍のエリートパイロット、ガムリン・木崎(CV:子安武人)はバサラの行動を快く思わず、バサラのバンド仲間のミレーヌ・フレア・ジーナス(CV:櫻井智、歌:チエ・カジウラ)も理解に苦しむ。誰にも理解されなかったバサラの行動だが、いつしか共鳴する人たちが現れ始め、ガムリンとミレーヌも理解を示すように。 やがてバサラの歌は敵の兵士の洗脳を解いたり、「スピリチアを奪う」という敵の攻撃の肝となる生命体「プロトデビルン」を追い払う効果を発揮するように。バサラの能力に気付いた統合軍はバサラらバンドメンバーを民間協力隊「サウンドフォース」として管轄下に置き、「サウンドフォース」は次々と「プロトデビルン」の進行を退けていく。人々から喝采を送られながらも、バサラは自分の思いとは異なっていることに迷い始め、歌う意味を求めて放浪の旅に出る。 「プロトデビルン」との戦いが続く中、ただただ銀河に向かって歌い続けるバサラ。その声はやがて「プロトデビルン」に変化をもたらし、自ら歌うことで無限に「スピリチア」が湧き上がることに気付いた「プロトデビルン」は、人類を襲うこと止めて宇宙へ飛び立っていく、というストーリー。 ■“シリーズの中でも異端”の存在 同作がファンを捉えて離さないのは、“シリーズの中でも異端”ともいうべき異色性だろう。「突然、何者か分からない敵から襲撃を受けて混乱する中、信念を持って突き進むヒーローがあらゆる困難を乗り越えて世界を救う」という少年心を持つ者なら誰しも心地良く感じる王道のストーリーをしっかりと踏襲しながらも、「主人公が戦わない」というチャレンジングな試みがなされている。主人公の歌が敵を変化させるのだが、彼はあくまで倒すことを目的に歌っているわけではないため、30年前の作品としてはかなり異端といえるだろう。そして、そのチャレンジングな姿勢は「不戦」という重いテーマを扱っており、世界情勢が混沌としている現在においてもズシリとした重さを感じさせる。 また、SFロボットアニメでありながら、強烈なまでにストーリー性に力を入れていること自体もチャレンジングだ。登場人物たちの苦悩や欲望、相手を思いやる気持ち、利己的な部分など、人間らしさをしっかりと丁寧に描いた人間ドラマとして見せることで、近未来を舞台にしたSFものでありながら、人の生き様を正面から描写。一方で、“戦場で歌う”というリアリティーから逸脱したフィクションらしさがエンタメ性を強めており、重いテーマを直接的に捉えないような工夫が施してあるところがにくい。 そして、「マクロス」シリーズの本流である、“歌の力”を能力として可視化してメッセージとして伝えているところがより強調された作品であるため、挿入歌も数多く制作されているところも特徴。シリーズ唯一の歌い手が男性(※バンドは男女ツインボーカル)という希少性もあり、劇中バンド「Fire Bomber」名義で発売されたCDは大ヒットを記録した。 そんな制作陣が込めたチャレンジングな姿勢で、大人のファンの心をくすぐる“シリーズの異色作”となっている。 なお、同作の配信がスタートしたディズニープラスでは、2024年内にマクロスシリーズ全18タイトルを配信予定。 ◆文=原田健