「お手ごろなテキストアドベンチャーゲーム」という戦い方の勝ち筋とは? 『パラノマサイト』石山貴也に『マーダーミステリーパラドクス』塩川洋介が訊く
「テキストアドベンチャーゲームは売れない」とゲーム業界では言われ続けている。 少人数でも作りやすいことから、作家性やテーマ性が色濃く出るジャンルでもあるため好みが分散されやすい。おそらく「テキストアドベンチャーゲームならどんなテーマでも好き」という人は多くはないだろう。 【この記事に関連するほかの画像を見る】 しかしそんななか、近年のテキストアドベンチャーゲーム界に彗星のごとく現れ、ユーザーから圧倒的な支持を得ているゲームがある。それが、スクウェア・エニックスの『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』(以下、『パラノマサイト』)だ。 オカルトノベルゲームかと思いきや、突然 “呪殺能力バトル” が始まるという尖りに尖った内容で、シナリオの濃さと意表を突かれるギミックで話題を呼んでいる。 そのシナリオは『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズや『スクールガールストライカーズ』(以下、『スクスト』)などで知られる石山貴也氏が担当している。 そんな『パラノマサイト』が異例の高評価を得ている背景には、上記の理由に加え「お手ごろ価格」ということも影響しているのではないだろうか。1980円というわずか映画1本分ほどの価格でありながら、2時間映画の5倍くらい(10時間前後)のボリュームがユーザーの満足度を上げているように思う。 つまりは、コスパやタイパなどさまざまな意味で「お手ごろなテキストアドベンチャーゲーム」となっているのだ。 そして、この流れに乗ってさらなるチャレンジに挑むゲームが発売を控えている。それが、『マーダーミステリーパラドクス このひと夏の十五年』(以下、『マーダーミステリーパラドクス』)だ。開発は塩川洋介氏が率いるファーレンハイト213が担当している。 そのタイトルのとおり、アナログの推理ゲーム「マーダーミステリー」をデジタルに翻案する、という挑戦を行っている作品である。そしてこの作品も、奇しくも新規IPのテキストアドベンチャーゲームであり、さらに2200円【※】という「お手ごろ価格」を予定している。 『パラノマサイト』のケースを鑑みるに、この「お手ごろなテキストアドベンチャーゲーム」という戦い方には、もしかすると一定の「勝ち筋」があるのかもしれない。 そう考えた電ファミ編集部は、『マーダーミステリーパラドクス』にてディレクターを務める中尾彩子氏の同席のもと、塩川氏と石山氏の対談を実施。 なぜスクウェア・エニックスのような大きな会社で「新規IP・テキストアドベンチャー・1980円」という企画が通ったのか。その戦い方を塩川氏が訊く形でお届けしていく。 聞き手/豊田恵吾 撮影/佐々木秀二 ■『パラノマサイト』は隅っこでコソコソ作っていた ──塩川さんと石山さんは今回が初対面になるのでしょうか? 塩川洋介氏(以下、塩川氏): 初対面になります。私は2015年までスクウェア・エニックスにいたので、同じ会社に在籍していたはずですが、石山さんにお会いすることはありませんでした。会社全体の集会などで同じ空間にいたことはあったと思うのですが……。 石山貴也氏(以下、石山氏): 自分は2005年から在籍しているので時期は重なっていますね。ただ、大きな会社なので部署やプロジェクトが違うと顔を合わせる機会がほとんどないんで。 ──なるほど。塩川さんは『パラノマサイト』のどういうところに魅力を感じていらっしゃいますか? 塩川氏: まず、いまの時代に『パラノマサイト』の企画を通せたことがすごいと思いました。スクエニという大きな会社がテキストアドベンチャーゲームを1980円で出したわけですから。 石山氏: 確かに、それについてはいろいろな方から聞かれます。「どうやってこの企画を通したんですか」って(笑)。 塩川氏: みなさん気になると思います。 石山氏: もともと、社内で「新規IPを立ち上げよう」という動きはありました。2022年にも、『春ゆきてレトロチカ』や『ハーヴェステラ』など新しいタイトルが出ていますから。 石山氏: そんな流れはありましたが、『パラノマサイト』の企画が通った理由としては、まず少人数、短期間での開発という制作費の安さがあると思います。その規模感ならば、リスクも少ないと判断されたのかなと。あとは1980円という価格設定や、墨田区との協業や、配信をOKにするといった試みが、チャレンジとして認められたのだと思っています。 それと、自分が『スクスト』でそれなりに結果を出していたことも、任せてもらえた理由になっていたらいいなとは思いますけども(笑)。 ですので、「テキストアドベンチャーゲームを作りたい」という企画から始まったのではなく、小さな規模で新規IPを立ち上げるとなったときに、「今回の条件で戦える武器がテキストアドベンチャーゲームだった」というのが流れ的には正しいです。 ──テキストアドベンチャーゲームなら経験値もあるという判断だった、と。 石山氏: はい。もともと『スクスト』でキャラクターデザインをしていた小林元さんに新しい企画を一緒にやりませんかと相談していて、ぜひにとOKいただいてまして。 なので、企画立案の時点では「シナリオ:石山貴也(自分)」と「キャラクターデザイン:小林元」だけが、自分の持っている手札でした。 塩川氏: すごくコンパクトな立ち上がりですね。 石山氏: そうですね。これまで小規模チームでの開発経験が多かった自分の考え方として「いない人をアテにしない」というのが根っこにあるんです。当てのないものを探し続けていたら絶対に終わらないので。 さらに予算にも限りがありますので、これはもう、売れないジャンルであろうが、今ある手札で納期とおもしろさと品質を満たすためにはアドベンチャーをやるしかないなと。 石山氏: 自分はスクエニに入る前にも『探偵・癸生川凌介事件譚』というテキストアドベンチャーゲームを作っていましたし、その後の『スクスト』のストーリーや演出でも大きな反響をいただいてましたから、どのくらいの工数があれば、どの程度のものが作れるのかはわかります。 そして、新規企画だと特に重要かつ難題となるキャラクターデザインも、デザイナー探しといういちばん大変な部分があらかじめクリアできていたことも大きいです。 ──限られた枠の中でベストを尽くせる環境が整っていたんですね。 石山氏: はい。売れるかどうかはわからなかったですが、テキストアドベンチャーゲームだったらおもしろいものを作りきれるという確信はありました。 塩川氏: テキストアドベンチャーゲームとなるとさまざまなテーマの選択肢があったかと思うのですが、ホラーミステリーにしたのはどうしてなのでしょうか? 石山氏: ジャンルについてはプロデューサーを務めた奥州の判断です。ホラー要素があると配信映えもしますし、自分としても『癸生川』シリーズでミステリーを作っていたので得意なジャンルでもありました。 石山氏: そこから「どんなホラーミステリーがいいだろう」という話に進んだとき、プロデューサーが見つけてきたのが『本所七不思議』でした。実在する伝承の謎を独自の解釈で紐解いていくのはおもしろそうですし、なにより舞台となる墨田区の自治体と連携することもできるというのが、いちばんの狙いでした。 そんな感じで、できる範囲でやれることを詰め込んでいきました。ゲームの中身でも、たとえば配信映えするように、ビックリさせるような展開を序盤に入れてみたり。 ──『パラノマサイト』の冒頭はホラー要素が強めで「絶対に振り向きたくない」というシーンもありましたね(笑)。 石山氏: おお。そう思っていただけたなら幸いです。 製品としての方向性が固まったら、プロデューサーからは「あとは好きにしていい」ってことだったので、好きにさせていただきました(笑)。 塩川氏: なるほど。とはいえ、いまはテキストアドベンチャーゲームが数多く売れるような時代でもないと思いますし、ここ5年10年ですごく売れたテキストアドベンチャーゲームはあまりないと思うんです。 それに墨田区というローカルな舞台だと国外の人もあまり知らなかったりするわけですよね。 石山氏: それはすごく言われました。あとは、「ボイスもないの!?」とか(笑)。 塩川氏: おっしゃられたように、いくらでもネガティブな要素をみつけることはできると思うんです。そういった状況の中、この企画が通ったところが本当にすごいと思います。 石山氏: そこについては、規模が小さかったから「ま、やってみれば?」という感じだったんだと思います(笑)。 あとは、途中まで作ったプリプロ版(プリプロダクション。本制作前の試作段階のもの)を社内でテストプレイしてもらったところ、評判がすごくよかったんです。テキストアドベンチャーゲームが好きな人に、しっかり刺さっていることがわかりました。 あまりにもよかったので、最初は「もしかして忖度しているのでは……?」と思ったほどです(笑)。 一同: (笑)。 石山氏: 「悪くないのであれば止める理由はない」と、本制作に進めさせてもらいました。 塩川氏: では、そこにいたるまでは逆風に耐えながら作っていたのでしょうか? 石山氏: 耐えるというより、隅っこでコソコソ作っていた感じなので(笑)。リモートワークだったこともあるので、おそらく、社内のほとんどの人はこんなゲームを作っているとは知らなかったと思います。何十人も関わる大きなプロジェクトだったら気づかれるかもしれませんが、社内で関わっていたのはコアメンバー数人だったので。 社運を背負っているわけでもなく、みんなが気にするわけでもなく、発表してから「そんなの作ってたの!?」と驚かれるような環境でした。 塩川氏: 『パラノマサイト』は発表からリリースまでが早かったですよね。発表前のティーザーもありませんでしたし。 石山氏: そうですね。「発表直後に予約開始! 価格は1980円!」というインパクトを出したいと思っていましたので。無事にテキストアドベンチャーゲームが好きな人に届いたみたいでよかったです。 リリース時は、ありがたいことにゲームメディアさんも推してくれて、各メディアで熱いレビューを書いていただきました。それを読んで「やってみようかな」と思ってくださった方は多かったと思います。電ファミさんもインタビューなど企画してくださったり、いろいろとありがとうございました。宣伝費もなかったので、とても助かりました(笑)。 中尾彩子氏(以下、中尾氏): 『パラノマサイト』の発表当時は、知り合いのミステリーゲーマー界隈がざわざわしていました。「予約した」という声や、発売後「おもしろかった」という声もかなり多かった印象です。 石山氏: おお、ありがとうございます。少なくとも、おもしろいと思ってもらえないと勝ち目がないので、発売前は緊張で吐きそうになっていました。多くの反響をいただき本当に感謝しています。 ■『パラノマサイト』が老若男女から支持されている理由とは ──『マーダーミステリーパラドクス』も『パラノマサイト』と同じく、少人数制作のテキストアドベンチャーゲームですが、タイトル立ち上げの話を石山さんからうかがっていかがでしたか? 中尾氏: 『マーダーミステリーパラドクス』は2年前から作っているんですが、「売れにくい」と言われているテキストアドベンチャーゲームで新規タイトルを作っているため、石山さんのお話はとても心強いです。 スクエニさんが『春ゆきてレトロチカ』を出されたとき「スクエニさんもこういうアドベンチャーゲームを作るんだ」という思ったのとと同時に、「すごくリッチだ……」と大手のパワーを目の当たりにして、羨望のまなざしで見ていたんです。ですが、そこに『パラノマサイト』が出てきて、その反響の大きさにも勇気づけられました。規模感が『マーダーミステリーパラドクス』と近かったので。 マーダーミステリーコミュニティでは『春ゆきてレトロチカ』や『グノーシア』を遊んでいる方が多いのですが、『パラノマサイト』についても「おもしろいから絶対やった方がいい」と布教する人を何人も見てきました。 石山氏: それは素敵なお友だちですね!(笑) 中尾氏: そういう、普段はマーダーミステリーをメインに遊んでいるアナログゲーマー達が『パラノマサイト』を遊んでいる姿を見ると、ビジュアルが「手に取りやすい」ということも遊ぶきっかけとして大きいように感じました。ホラーでありながら親しみやすいビジュアルになっているので、さまざまな人が遊びやすい。 石山氏: そこは小林の絵の力だと思います。きちんと特徴があるけど、クセが強くなくて上手いので、老若男女に嫌われにくいのかなと。 テキストアドベンチャーゲームはもともと狭くてニッチなジャンルだと思っているので、普段ゲームを遊ばない人にプレイしてもらえているのはすごくうれしいです。 塩川氏: 『パラノマサイト』の反響の話でいうと、私の周りもかなり遊んでるみたいで、某有名シナリオライターさんも発売してすぐ「あれいいよ」と言っていました。 石山氏: なんと! ありがとうございます! そういうのはもっと言ってください!(笑) 一同: (笑)。 塩川氏: テキストアドベンチャーゲームはストーリーを最後までやったうえでの感想が一般的ですけど、『パラノマサイト』は開始5分~30分の序盤からすごくおもしろいと思いました。そういった掴みもあり、なおかつメカニクスでホラーの演出を行っていたのもすごくよくて。先ほどの「振り返り」の部分がまさに。 ――「うしろにいるんだろ」と思いながら振り向いても、しっかり怖いですよね(笑)。 ■マーダーミステリーのメカニクスにチャレンジしたい ──『マーダーミステリーパラドクス』はまだ発売前ですが、石山さんは体験版を遊ばれたのですか? 石山氏: 序盤だけですが、遊ばせていただきました! ──作られた本人を前にして答えづらい質問だとは思いますが、率直にいかがでしたか? 石山氏: すごく難しいことにチャレンジされていると思いました。アナログのマーダーミステリーをデジタルゲームに落とし込むには、新しい工夫やアイデアがたくさん必要だろうなと思います。複数人で集まって遊ぶゲームだから許されているムーブを、そのままストーリー上でやろうとすると違和感が出てしまうでしょうし。 たとえば「死体を見つけてざわざわしているなかで密談するの?」など、ルール上そうなっている部分を自然な流れで行わせるのは、かなり大変だと思います。 ──ゲーム開発者として、興味深い点はありますか? 石山氏: 自分はそんなにマーダーミステリーに詳しくはないのですが、「本来のおもしろさを抽出するとこうなるのか」と教えてもらえたような気持ちでした。なるほど、お互いに隠し持っている情報をうまく交換して、信用を得ながら真相を探っていくことがキモなんだな、と。そこがちゃんと体験できるようになっていて、興味深く感じました。 電ファミさんがインタビューされていた記事を読ませていただいたのですが、プレイヤーの視点をほぼひとりに絞ったのはどういった経緯があったのでしょうか? 塩川氏: もともと「リアルで遊ぶアナログのマルチプレイゲームをシングルプレイのデジタルゲームにしよう」という企画でした。 たとえば『グノーシア』や『レイジングループ』、少し違うかもしれませんが『ダンガンロンパ』も人狼的なニュアンスを含んでいると思うんです。そういったいい事例がいくつもあるなかで、それをマーダーミステリーでやりたいと思いました。 塩川氏: マーダーミステリーの特徴のひとつとして「プレイするキャラクターごとに役割が異なる」というのがありますが、シングルプレイで毎回違うキャラクターにしてしまうとストーリーのどこに感情移入したらいいかわかりづらくなってしまう。 そこで、主人公がさまざまな事件に巻き込まれていく形にすることで、いろいろな役回りになれると同時に感情移入するべきキャラクターをひとりに絞れると思ったんです。 石山氏: なるほど。視点はひとりでも、ちゃんと異なる役回りが味わえるのですね。 塩川氏: この企画の前身は大学との産学連携プロジェクトなんですが、始めは普通のテキストアドベンチャーを作ろうとしていたんですが、結果的にマーダーミステリーをテキストアドベンチャーとしてデジタルゲーム化するというチャレンジをしてみることになりました。問題は「チャレンジのハードルが高い」という部分なんですが(笑)。 石山氏: マーダーミステリーでシングルプレイは、恐ろしいチャレンジだと思います! 一同: (笑)。 塩川氏: ハードルが高いことはわかっていたのですが、学生となにかチャレンジしたいとなったとき、興味を持っていたマーダーミステリーでやってみたかったんです。 石山氏: いや、それはクリエイターとしてすごく大事なことだと思います。『パラノマサイト』はあまり新しいことにチャレンジせずに作って、たまたまうまくいって評価していただけましたけども、本当はもっと新しいおもしろさを追及していくことも必要だろうなとは思います。 中尾氏: アナログゲームをデジタルにするうえで「対人プレイならば会話の中で解決できる部分をシステム的に解決しないといけない問題」があるのですが、修正を重ねていくと最終的に伝えたいことが伝わらない状態になってしまうことも多くて……。 石山氏: 「おもしろくする」ってすごく苦労しますよね。『パラノマサイト』も決まった仕様のなかでさまざまなアイデアを出し合って工夫しました。特に、仕組み上どうしてもキャラクターの動きを伝えにくいので、アクションのあるシーンを会話だけでどう表現するかは悩みましたし。 中尾氏: じつは『パラノマサイト』でリスペクトした部分がひとつあって……。 石山氏: おお。ひとつなんて言わず、いっぱいあってもいいですよ! 一同: (笑)。 中尾氏: 『パラノマサイト』は会話の中の“間のつくり方”がすごいですよね。特に目線の動き。セリフの前に “目線でちょっと語る” んです。それが場の雰囲気をとてもうまく演出していて、ちょっと怪しかったりするとすぐに伝わる。 3Dで気にするようなことを2Dの中で普通にされていて、テキストの流れ以外での時間の流れをシームレスに感じる演出だと思いました。 石山氏: さすが、そこに目を付けていただけるとは! ありがとうございます! じつは視線の演技の有用性は『スクスト』で学んだものです。目線を逸らしているだけで「ありがとう」の意味も変わってくるなと。なので『パラノマサイト』では視線の差分バリエーションも用意して、使い分けで演技させています。 中尾氏: そのこだわりを見て勉強させていただきました。その他にもカット切替も細かく丁寧に設定されていて、本当にすごいと思います。 石山氏: いえいえ。もう、どんどん真似しちゃっていいですよ!(笑) 一同: (笑)。 ■マーダーミステリーならではのおもしろさとは ──ちなみに石山さんはアナログのマーダーミステリーで遊ばれたことはありますか? 石山氏: あ、はい。知り合いに誘われて2回ほどですが。その数少ない経験で個人的におもしろいと思ったのが、終わったあとにほかのプレイヤーの指示書を見るときで。「ああ、だからあんなことしてたのか!」とか「あのとき言っていた言葉はそんな狙いがあったのか!」とか、種明かしの瞬間がいちばん楽しかったなあと。むしろ、種明かしで驚いたり納得したりしたいがためにマーダーミステリーをやると言っても過言ではないくらいに(笑)。 そういう、「いろいろな立場での言動が交わって謎や疑問が生まれていく体験」が、マーダーミステリーならではなんだろうなと思いました。 塩川氏: 『マーダーミステリーパラドクス』のシナリオライターはマーダーミステリー出身の佐藤倫(じゃんきち)さんなので、キャラクターの裏側についてはしっかり見せられると思います。 ただの悪人や嫌われるためだけのキャラクターは作りたくないと思っていて、「どんな行動も回収すべき裏がある」というところはミステリーとして大事にしたい。でもそれを見せるには最後まで遊んでいただかないといけないので……。 石山氏: ああ、そこが難しいところですよね。種明かしも全部しないといけないですし。 塩川氏: 先例もなく、手探りで作っているので頭を悩ませている部分でもあります。プレイテストではマーダーミステリー経験者からもある程度良い評価をもらえているので、テキストアドベンチャーゲーム化としてはそれなりに良い形に落とし込めているとは思っているのですが……。 とはいえマーダーミステリーのすべてを再現するのは不可能ですから、取捨選択してエッセンスだけをうまく抽出する必要があり、それが『マーダーミステリーパラドクス』の最大のチャレンジです。 石山氏: なるほど。再現できれば絶対におもしろいので、チャレンジしがいはあると思います。あと、マーダーミステリーはシナリオごとにルールや条件が違うところもいいですよね。決まりきった構成ではなく、シナリオによってはトリッキーな役もあったりして。 中尾氏: 事件を解決するだけのシナリオもあれば、犯人以外の役柄にも重要な目的があるシナリオもありますからね。 石山氏: キャラクターごとに目的が違っていて、犯人を見つけ出すことが必ずしも全プレイヤーの目的じゃないところも特徴的でおもしろいと思いました。そういう要素がうまく事態を複雑にしてくれるし、プレイヤーを怪しくしてくれる。よくできたシステムだなあと思います。 塩川氏: 佐藤倫(じゃんきち)さんの手がけたマーダーミステリーは非常に評価が高く、エンタメとしておもしろいのでぜひ遊んでいただければ……ちょっと時間はかかるんですけど。 ──どれくらいなんですか? 塩川氏: 6時間くらいです。 石山氏: 長っ!! 興味はありますけど、長っ!!! 一同: (笑)。 塩川氏: 時間拘束が長いのでハードルは高いんですけど、実際にやってみるとあっという間ですよ。 ■テキストアドベンチャーゲームはこの先も細々と続いていく ──石山さんと塩川さんは年代も近いですよね? 塩川氏: 私は1979年生まれです。 石山氏: 自分は1975年です。もう結構な年です。下積みが長かったですが、ようやく業界に認識されるようになったのかなと!(笑) 塩川氏: いやいや、『スクスト』があるじゃないですか。 石山氏: ありがとうございます。でも『スクスト』の時はあまり反応がなくて……。 塩川氏: スクエニのスマホゲー初期では代表的なヒットタイトルだと思いますが、外から見ると作り手の発信はなかったかもしれないですね。 石山氏: はい。開発者を外に出さない方針でした。女の子ばかりのコンテンツなのに中身はおじさんばかりなのを見せたくないというプロデューサーの意向で(笑)。 一同: (笑)。 石山氏: 『パラノマサイト』を出してからは、社内でも知らない人から「おもしろかったです」というリアクションをいただいて、すごく驚いています。ゲーム1本でこんなに変わるのかと。このような対談をさせていただく機会もいただけましたし! ──『パラノマサイト』の注目度は上がり続けていますから、続編を期待する声や石山さんが手がける新たなアドベンチャーを望む声も大きくなっていると思います。 石山氏: テキストアドベンチャーゲームはこの先もたまにヒット作が生まれて、細々と続いていくんだろうなと思っています。作りやすいですし、ジャンルがなくなることはないでしょうから。そういうジャンルが好きな人に向けてこれからも出していきたいという思いはあります。がんばります。 塩川氏: 石山さんは、シナリオを書くことについてはどこで学ばれたんですか? 師匠的な方がゲーム業界にいらっしゃったりするのでしょうか? 石山氏: それで言うと、完全に独学ってことになります。昔からテキストを書くことは好きで、学生のときに小説を書いたり、個人でテキストアドベンチャーゲームを作っていたりしました。会社に入ってからは自分なりに研究をして「読みやすい文章にはなにが必要だろう」とか「『ドラゴンクエスト』の文章って読みやすいな」とか、書きながら覚えていきました。 塩川氏: ユーザーとしてもテキストアドベンチャーゲームやノベルゲームがお好きなのでしょうか? 石山氏: もちろん好きなテキストアドベンチャーゲームはたくさんありますけども、作家性が強く反映されるジャンルですから、どうしても好みは出てきますよね……。ですが一般ユーザーさんでも「アドベンチャーならなんでも好き」という人はそんなにいないと思っていて、自分の作品についてもそれは覚悟しています。 今回は高い評価をいただきましたが、次がどうなるかはわからないですから。ベストセラー作家だって毎回ヒットするわけではないですしね……。 ──『パラノマサイト』のヒットを受けて、フォロワーゲームが出てきそうな予感もあります。 石山氏: あ。それについては、この記事を読んでいる業界の人に本当に気をつけてほしいことがありまして。「よし、『パラノマサイト』が売れてるみたいだから、うちもテキストアドベンチャーゲームを作ろう!」という考えは、やめたほうがいいと思います!(笑) 一同: (笑)。 石山氏: テキストアドベンチャーゲームだから売れるわけではありませんよ、と。アイデアやスタッフがあってこそです。自分も20年の下積みがあってのいまですし、「ぽっと出じゃない」ということで(笑)。 一同: (笑)。 ──最後に石山さんから、『マーダーミステリーパラドクス』へ期待するポイントなどがあればお聞かせください。 石山氏: マーダーミステリーのフォーマットに事件を当てはめると「紐解いていく」ということがすごくわかりやすくなるんだな、と思いました。解き筋が見えてくるのがおもしろいので、それを生かしてどういった展開を見せてくれるのかが楽しみです。 あとマーダーミステリーは、どうしても情報が多くなって全容を把握するのが大変になるので、時系列やキャラクター別にヒントが並べられて整理されるのもすごく親切だと思いました。コンピューターゲーム、デジタルゲームだからこその利点が活かされていると思います。 キャラクターもそれぞれ深みがありました。まだ序盤までしか遊べていないので、これからより大きな事件に巻き込まれていくのだろうと思うと、わくわくしてきます! 塩川氏: ありがとうございます。よろしければ、アナログのマーダーミステリーも一緒にやりましょう。 石山氏: おお。ぜひお願いします。 塩川氏: 6時間もあっという間ですから。 石山氏: それはやっぱり、長っ!!(笑) 塩川氏: 楽しみにしています。(了) 「ないものは気にしない」という方針で、限られた環境からヒット作を生み出した石山氏。一方で、まだだれも試したことがないであろう題材に奮闘する塩川氏。同時代にまったく別のアプローチでテキストアドベンチャーゲームに挑むふたりのクリエイターの対談となった。 塩川氏の新しいことへの挑戦について、石山氏は「クリエイターとして大事なこと」と語る。そうしてテキストアドベンチャーゲームはこれからも濃いファンを生み出していくのだろう。 『マーダーミステリーパラドクス』がどのようなものになっているか、その全貌を私たちはまだ知ることができない。本作はPC(Steam)用として12月2日に発売を予定している。記事を読んで気になった人はぜひ体験版を遊んでみてはいかがだろうか。
電ファミニコゲーマー:
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