波紋を呼ぶブラヒム・ディアスのモロッコ代表選択。彼は必要とされていたのか
文 木村浩嗣 レアル・マドリーのブラヒム・ディアスがモロッコ代表を選んだニュースが波紋を呼んでいる。 ブラヒムはスペイン(マラガ)の生まれだが、「ブラヒム」というアラブ系の名からもわかる通り、両親はモロッコ出身で二重国籍を持っている。クラブではレギュラーではなく、ビニシウス・ジュニオール、ジュード・ベリンガム、ロドリゴ、ホセルに次ぐ5番目のアタッカーという位置づけだったが、8ゴール4アシストを挙げ、今やホセルを抜きロドリゴに並んだ感がある。センセーションを起こしている最中だけに、どの国を選ぶのか注目されていた。
積極的に口説いていなかった?
問題視されているのは、スペイン代表を率いるルイス・デ・ラ・フエンテ監督の姿勢である。 ニュースを受けて「代表招集は強制ではない」と談話を発表した。強制招集はできない、というのは正しいし、選手側の選ぶ権利と自由を尊重するというのももっともだ。だが実際には、モロッコを選んだのはもちろん本人なのだが、“選ばざるを得なかった”というのが正しい。 彼はスペイン代表で1試合のプレー済みで、あと3試合出場すれば国を変えられない状況だったが、一向に招集の声が掛からなかった。 選択の「権利」とか「自由」とかというのは建前で、ニコ・ウィリアムス(ガーナとの二重国籍)やロビン・ル・ノルマン(フランスとの二重国籍)は積極的に口説いたし、ラミン・ヤマル(モロッコとの二重国籍)はトップデビューするやいなや連続招集して逃げられないようにしている。欲しい選手なら、会見で言及したり電話したりして裏に表にアプローチをするものなのだ。 つまり、代表監督と連盟が「不要」という結論を出したわけだが、この判断は正しかったのだろうか?
唯一無二のドリブル。モロッコは以前から注視
ブラヒムのスペースの狭さを苦にしないトリッキーなドリブルは「ストリートサッカーの匂いがする」と言われ、例えばニコ・ウィリアムスやラミン・ヤマルのそれとは別種のもの。ジェレミー・ピノには似ているが、アイディア豊富なアシスト力で上回っている。 途中投入されて流れを変えられる馬力と、イングランドやイタリアで身に着けた強い性格も良い。まだ24歳と伸びしろもある。 一方、モロッコ側は十代の頃から追いかけ続け、W杯後には代表監督がミランを訪れて直接口説いた努力が実を結んだ格好だ。 スペインから声が掛からずモロッコを選んだ選手としては、過去にムニル・エル・ハダディやアブデ・エザルズーリがいる。地中海を挟んだ隣国同士で、モロッコにとってスペインは重要な移民先になっている(スペインには90万人近いモロッコ人移民がいる)。 カタールW杯でモロッコがスペインを破ったように、近年はサッカーのレベルも均衡していることで、今後も両国間で悩み、奪い合いになるケースは増えていくだろう。