“遅れてきた大物”ブレイディヴェーグがGⅠ初制覇! 戴冠の裏にあった馬主サンデーレーシングのしたたかな戦略【エリザベス女王杯】
ブレイディヴェーグは、父ロードカナロア、母インナーアージ(父ディープインパクト)という血統で、母は宮田調教師が調教助手だった時期、国枝厩舎に所属していた馬である(現役時は21戦4勝)。 2歳8月のデビュー戦(新潟・芝1800m)は2着に敗れたが、上がり3ハロン最速の32秒3という豪脚を使ったことで注目を浴びたものの、骨折が判明して長期休養に入った。 復帰戦は3歳2月。未勝利、1勝クラスをともに上がり最速の脚を使って圧勝すると、前走のローズステークス(GⅡ)では、のちに秋華賞(GⅠ)でリバティアイランド(牝3歳/栗東・中内田充正厩舎)の2着に食い込むマスクトディーヴァ(牝3歳/栗東・辻野泰之厩舎)に出遅れながら、またも最速の上がり(32秒9)で1馬身半差まで詰め寄っていたほど、潜在能力はかなり注目されていた。 通常であればこのあと、出走権を獲得した秋華賞へ進むところだが、本馬はそれをスキップしてエリザベス女王杯を選んだわけだが、このローテーションの裏にはある事情が浮かび上がる。 牝馬三冠を達成したリバティアイランドとブレイディヴェーグのオーナーは同じサンデーレーシング。2頭をぶつけるよりも、三冠がかかったリバティアイランドは秋華賞に向かわせ、古馬との対決でも引けを取らないと思われるブレイディヴェーグをエリザベス女王杯へと振り分けた、と考えられる。そして、その両GⅠをゲットするのだから、さすがトップブリーダーであるノーザンファームの生産・育成馬を要するクラブ法人の巨人、サンデーレーシングだと言わざるを得ない。 2着のルージュエヴァイユは、ハーパー、ブレイディヴェーグの2頭を前に見る位置でレースを進め、終いはしぶとく伸びてブレイディヴェーグを追い詰めた。父ジャスタウェイということから距離延長が心配されたが、ロスのないコース取りでそれを克服。3戦連続で重賞2着と、牝馬の上位に値する力を示した。同時に彼女を見事にエスコートした松山弘平騎手の好騎乗も光った。 3着のハーパーは持てる能力を出し切った印象。積極的な競馬で逆転を狙ったが、これまでの課題だった詰めの甘さは克服できなかった。現状では「現役最強の2勝牝馬」ということになるのだろうが、晩成型が少なくないハーツクライ産駒ということで、これからのさらなる成長が期待される。 昨年の1、2着馬であるジェラルディーナとライラックも一応の力を見せた。特に残念だったのはジェラルディーナで、パドックではいつも以上のイレ込みを見せ、ゼッケン下からは多量の発汗で白い泡にまみれていた。そのせいもあってかスタートで大きく出遅れ、直線もかなり外に持ち出さざるを得なかった。世界的な名手ライアン・ムーア騎手も「(外をまわった分が)距離の不利があった」と残念がった。 その他、プレビュー記事で筆者が注目馬として挙げた各馬は上位とは明確な差があったというのが正直な感想だ。あえて言えば、今後に期待できるのは後方から追い込んだ6着のサリエラ(牝4歳/美浦・国枝栄厩舎)と7着のディヴィーナ(牝5歳/栗東・友道康夫厩舎)の2頭か。 勝ち馬とのタイム差は前者が0秒3、後者が0秒4とさほど大きなものではなかった。以後、重賞に出てくれば好勝負は必至だろうし、牝馬限定GⅠでもメンバー次第では頂点に手が届く可能性は十分あるだろう。 取材・文●三好達彦
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