『放課後カルテ』松下洸平が教える“本当の優しさ” 母親の複雑な心情を表現したソニンの涙
10月期土ドラ9『放課後カルテ』(日本テレビ系)を観ていると、真の優しさとは何かを深く考えさせられる。時として、相手のことを真摯に思うからこそ、厳しい言葉を投げかける。それもまた、本当の優しさなのではないだろうか。 【写真】篠谷(森川葵)と話す牧野(松下洸平) 小児科医の牧野(松下洸平)は、かつて病棟で担当していた患者・冴島直明(土屋陽翔)の姉が、自身が受け持つ6年2組の児童・冴島啓(岡本望来)だと知る。長い入院生活からようやく解放される喜びに胸を膨らませる直明だが、息子の健康を何よりも優先する母・環(ソニン)は、学校への通学を頑なに許可しようとしない。しかし、どんなに病気と闘ってきた我慢強い子直明でも、やはり等身大の小学生。好奇心に突き動かされた直明は、母・環が外出している隙を見計らって、外の世界へと足を踏み出してしまう。 啓は一緒についていくものの、学校に忍び込んだ直明は啓の目を離れ、一人で校内の探険に出かけてしまう。同じ頃、放課後の学校で怪談ツアーをしようと隠れていた拓真(柊吾)、宏哉(吉田奏佑)、大和(山口暖人)と出会った直明は、6年生の彼らと自然と友達になっていく。 一方、弟の姿が見えなくなった啓は、学校で唯一直明のことを知っている牧野に助けを求め、一緒に弟を探す。しかし、直明の体調は探検の途中で少しずつ悪化。駆けつけた牧野は、ぶっきらぼうに彼を叱る。そんな牧野に「悪魔!」と牧野に声をかける6年生たちの行動すら、直明に人生初めての友達ができたことを思うと、どこか温かく感じられてしまう。 「みんなと同じことができたんだ」。直明のその一言には、胸の奥に溢れる感動と喜びが込められていた。これまで両親、とりわけ母からの過保護とも言える深い愛情に包まれて育ってきた直明にとって、「みんなと同じ」時間を過ごした何気ない一時は、限りなく尊く、夢のような輝きを持つ時間だったに違いない。多感な子供時代において、仲間たちと同じ目線で同じ空気を分かち合えることが、どれほど大切な宝物のような経験だったことか。その無垢な喜びは、土屋陽翔演じる直明の、歯の抜けた愛らしい笑顔の中にかけがえのない輝きとなって映し出されていた。 その後、今度は姿を消した啓の捜索に奔走することになった牧野。しかし母・環は「啓ならすぐに帰ってきますよ」と、どこか冷ややかな態度を見せる。これまで病気と懸命に闘う弟・直明の心を支え、明るい笑顔で励まし続けてきた啓。小学6年生とは思えない深い思いやりの心に誰もが心を打たれる一方で、母である環は異なる形の愛情を胸に秘めていたのだった。 「体だけじゃない。心だって悪気のない人に傷つけられるの。苦しいのは直明なのよ」 環のその言葉には、我が子を世界中の辛さから守り抜こうとする母親としての揺るぎない決意が込められていた。環もまた、啓と同じく、いつの日か直明が何の心配もなく普通の日常を過ごせる日が来ることを、誰よりも切実に願っている。友達と楽しい思い出を作らせてあげたい。外の世界で思いっきり遊ばせてあげたい。その切なる願いは、母親である環にとっても変わらないものだった。しかし、一時的に願いを叶えてあげることで、後に体調を崩し、苦しい思いをするのは直明本人なのだ。 大人が、そして特に家族が示すべき本当の優しさとは、時として厳しさを伴うものだ。それは、愛する人のために最善を尽くし、時には自分の感情を押し殺してでも、相手の未来を第一に考えて行動することなのかもしれない。息子を守りたいという強い思いと、その成長を見守る喜びの間で揺れ動く複雑な母親の心情を、ソニンの“涙”が見事に表現していたのではないだろうか。 環が見せる直明への深い愛情と、その愛ゆえの苦悩を牧野は見事に見抜いていた。「みんなでかくれんぼして遊んだんだ」と、目を輝かせながら無邪気に語る直明。その晴れやかな表情に、牧野は静かに、しかし確かな重みを持つ言葉を投げかける。「かくれんぼができるようになったのは、お前が今まで辛抱強く治療を続けてきたからなんだ」と。 そもそもの牧野というキャラクターが体現するように、本作の描く優しさは、時としてピリリと辛口で、受け手を一瞬たじろがせることもある。しかし、その言葉の裏には必ず、相手の成長を願い、その人の未来を見据えた深い愛情が込められている。それは決して、その場しのぎの慰めでも、表面的な同情でもない。目の前にいる人が本当の意味で強くなり、自分の足で立って歩いていけることを願う、純粋で力強い想い。そんな“本当の優しさ”の在り方を、そっと教えてくれるのが『放課後カルテ』なのだろう。
すなくじら