【ふくしま創生臨時支局・常磐湯本】観光客回復へ温泉街再整備 湯本駅前に複合施設 福島県いわき市
東京電力福島第1原発事故やコロナ禍で落ち込んだいわき湯本温泉の観光回復のため、福島県いわき市はJR湯本駅前を中心に温泉街全体の本格的な再整備に乗り出す。観光客の玄関口となる駅前に公共施設や観光案内、温浴施設などの機能を集約した複合施設を整備し、2030(令和12)年度の供用開始を目指す。温泉街に住民や観光客が集まる拠点を複数整備して地域内の回遊性を高め、県内外からの誘客を進める。 市が計画する複合施設の敷地面積は約4千~4500平方メートル。観光機能の他、民間事業者が運営するカフェやマルシェなどの物品販売、温浴施設を想定している。付近の商店街につながる歩道を複数整備し、新たな人の流れを生み、商店街の活力も高める。温泉神社や御幸山公園など周辺の観光スポットを紹介する拠点にもなる。複合施設には老朽化している常磐支所や公民館など常磐地区の五つの公共施設を再編、集約する。支所、公民館、多目的ホール、図書館の機能を設け、災害発生時の避難場所としても活用する計画だ。
駅前には飲食店や土産品を販売するコンビニがあるが、住民や観光客が滞在する場所が少ない。複合施設が完成すれば、より多くの人が長時間滞在する場になる。常磐支所の跡地には観光客や住民が利用できる滞留拠点を整備し、複合施設近くに立体駐車場なども設置する予定で、駅前や温泉街を含めた地域全体を回遊してもらう。 市は複合施設の設計、建設などを一括して民間事業者が担う公民連携方式を検討する。公共施設部分の事業費を約44億円と見込むが、公民連携方式で8~14%の事業費削減につながるという。国の補助金も活用する予定。現在、予定地には飲食店や駐車場などがあり、市は地権者の同意を得て今年中にも駅前の区画整理の認可を県に申請する予定。住民や民間事業者と対話の場を設けて具体的な計画を固める方針だ。来年度以降、事業者を公募し、2028年度の着工を目指す。温浴施設など民間施設部分を含めると費用はさらに膨らむとみられ、市民の理解醸成や事業者を確保できるかが鍵になる。
いわき湯本温泉の昨年の観光客数は約21万人で、原発事故発生前の約60万人の3分の1程度。コロナ禍の外出自粛も追い打ちをかけ、廃業する旅館や空き店舗が増えた。再整備で原発事故発生前と同水準の観光客数に回復させるのが目標だ。市とともに計画に携わっている、まちづくり団体「じょうばん街工房21」の小泉智勇会長は「温泉街が生まれ変わるチャンスと捉えている。温泉街全体で誘客につながるよう機運を高めていきたい」と語った。