氷の国なのにアイスランドが「トマト大国」な理由、農業を支える火山大国ならではの資源活用
「このパンが作られ始めたのは18世紀だが、当時アイスランドにパン窯は1つもなかった。日照が短く夏が短いため穀物が育たず、木が育たないから窯を暖める薪も潤沢にない。わずかな穀物は粥にして食べていた」というのは、アイスランドの食文化研究者Nanna Rögnvaldardóttir氏の著書 『Icelandic Food and Cookery』 によるもの。 たしかに、ドライブの間も高い木は見かけず、ひたすらはげた大地が続いていたし、60代の方々と話すと「子どもの頃は食パンなんてなかった」という。今や世界有数の豊かな国になったこの国で、ほんの最近までパンも容易に焼けなかったというのも驚くが、大地の熱を使ってパンを焼くという発想にも舌を巻く。
地中で料理するのは、パンだけではない。レイキャビク郊外の町Hveragerði(クヴェラゲルジ)には、かつて共同の「キッチン」があったという。「地面に四角く穴が掘られていて、家の女性たちが鍋を持ってやってくるの。地面に埋めておいて、数時間後に取りにくる。私が子どもの頃はまだあったんだけどね」と、この土地で生まれ育ったソフィアさんは語る。 その後、2008年に起こった近くの山の噴火で「活発なエリア」が移動し、以前ほどの高温は得られなくなってしまったこともあって穴は埋められ、このあたりの温室農業も衰退した。地熱があることが、これほどまでに食の生産に寄与しているなんて。
■地熱利用は生活全般に 食からさらに視野を広げると、生活のかなり多くの部分が地熱に支えられていることに驚愕する。 まずは発電。地熱発電3割水力発電7割という電力構成は、クリーンエネルギーが推進される世において、あこがれるくらい理想的だ。そのうえ人口が少ないため安価な電力が潤沢にあり、電力を大量に必要とするアルミ製錬が成長した。今はデータセンターを誘致し増えてきているという。 石油はとれないが電気はあるということで、電気自動車(EV)の普及も凄まじい。滞在先の父さんが運転する車は、自動運転で知られるテスラのモデルY。内心興奮する私をよそに「これは昨年アイスランドで一番売れた自動車だよ。日本のトヨタ・カローラみたいなものかな」とさもない様子で言う。