傾いたイギリスのパブ、火災後も「傾いたまま再建せよ」…地元議会が命じる
建物全体が傾き、名所として愛されていたイギリスのパブ「クルックド・ハウス(曲がった家)」が、昨年夏に不審火で全焼。地元議会は今年2月末になって、以前のように“傾いたままの状態”で再建するよう、建物オーナーに命じた。 【動画】火災後の傾いたパブの様子。傾斜したれんがの外壁を留めている。 AP通信によると2月27日、サウス・スタッフォードシャー州議会は声明を発表。「所有者らと協議」したうえで、パブを2027年2月までに「火災前の状態に戻す」ことを命じたという。通知を受けた3名の所有者側には、異議申し立ての期間として30日の猶予が与えられる。 ロンドンから北西に約200km、ヒムリー村の付近にあるクルックド・ハウスは、全体が15度以上傾いて建つ。建物の左右では、床の高さに1.2mほど差があるユニークな造りだ。外観はレンガ造りのほぼ長方形の2階建て建物で、左側の沈下を擁壁で補強している。 奇妙な感覚は、建物に足を踏み入れるとより大きくなる。床は一様に傾斜しているが、内装の角度はまちまちだ。カーテンは垂直に垂れ、窓枠は平行四辺形にひしゃげ、ソファとテーブルの一部は本来の水平に近く補正され……と、さまざまに入り乱れる角度がめまいのような感覚をもたらす。
「アメリカより古いパブ」が失われた
米ワシントン・ポスト紙によると、建物は1765年に農家の家屋として建てられた。しかし、19世紀半ばに栄えた石炭採掘の影響で片側が沈下。1830年前後からパブとして人々が集まり始め、昨年の火災前まで地元ブラック・カントリーの名所として愛されていた。「アメリカ(1776年建国)よりも古いパブ」であった、と記事は伝えている。 このパブで数々の思い出の時間を過ごしてきたと振り返る英バーミンガム・メール紙のアリソン・ブリンクワース記者は、「床が傾いているので、ドアをくぐる前から酔っ払っているような気分になれる」「バーは斜めなのに、パイントは直立しているのも楽しみのひとつだった」と、クルックド・ハウスの楽しみ方を語る。 パブはビール醸造会社のマーストンズが運営していたが、昨年7月、個人所有の農場であるATEファームズに売却された。売却の前からマーストンズは、老朽化のためパブとして存続する可能性は低いとコメント。保存を求めるネット署名活動にも発展し、存続を願うFacebookページには3万7000人以上が参加していた。