勝つことだけが高校野球じゃない 全員で楽しむ、育成重視の手作り「リーグ戦」 選手も監督も一緒に成長
長野県の「信州リーグ」、ルールは投球数や変化球制限、バント禁止、全員出場…
乾いた金属音を残して、打球が外野手の間を抜けていく。紅白戦や練習試合とは異なる緊張感に包まれながら、スタンドのないグラウンド上で真剣勝負が進む。 10月下旬の週末、久しぶりに高校野球を見るため長野県立飯山高校(飯山市)のグラウンドを訪ねた。取材したのは、飯山と小諸との試合。硬式野球部のある県内高校8校で構成する総当たりのリーグ戦だ。2016年から始まったといい、「信州リーグ」と呼ぶ。夏の長野大会、春季、秋季の県大会とは別に参加校が9月から11月にかけて対戦。リーグの趣旨に賛同して現在、飯山、長野吉田、須坂創成、小諸、佐久長聖、岡谷南、飯田、飯田風越の8校が参加している。 リーグは独自ルールがある。投手の場合、1人が1試合で投げられるのは105球まで。1人の打者に変化球は2球以内。打者は低反発の金属バットか木製バットを使う、といった具合だ。五回まではバント(犠牲、セーフティーとも)禁止。1日に行う2試合で全員が出場できるよう起用する。いずれも選手に過度な負担がかかるのを避け、将来につながる育成を重視している。
楽しんでいい試合をー原点回帰
「試合に勝つことだけが野球じゃない。いい野球をしっかり、ということ」。1、2年生による新チーム25人を率いる飯山の吉池拓弥監督(32)は一塁側ベンチ前で口を開いた。リーグ戦には2年目から参加している。 2019年夏の全国選手権長野大会で初優勝し、甲子園の土を踏んだ。以来、飯山の選手たちに「勝ちたい」という気持ちが強くなったという。そのため重圧を感じたり、力んだりと「試合で体が思うように動かない」。 「飯山(の野球部)なら、甲子園に行けるかもしれない」と入ってくる生徒もいるという。公立高校による甲子園出場で、地元の期待も大きくなった。 勝つだけでなく、いい試合を―。そんな原点回帰が、このリーグではできるという。 私も高校時代、試合は楽しいというより緊張や不安が心の多くを占めていた。時代は変わっても、子どもたちの心はそう変わっていないだろう。 吉池監督は「ルールが面白い」とも話した。投手の投球数や変化球の制限は「選手の成長を考えるといい。速い直球でストライクゾーンを使えるからです」。