大関の座をめぐる活発な動きと一人横綱の重し
7月下旬から8月にかけて、スポーツ報道はパリ・オリンピックのメダルラッシュに大いに沸いた。大相撲も力士のメディア露出といえば、テレビの大食い番組などに減ったが、中部地方から東北、北海道まで夏巡業をこなし、各地のファンたちとの触れ合いを継続。8月26日には早くも秋場所の番付発表だ。そこで、名古屋場所を振り返りながら今一度、大相撲の注目点をおさらいしてみる。
意義大きいV10
まず、名古屋場所で賜杯を手にしたのが横綱照ノ富士だった。伊勢ケ浜部屋の横綱としては、先輩に当たる日馬富士の9度を上回り、10度目の優勝となった。以前は年2場所制の頃などがあり時代によって条件は異なるものの、2桁の優勝回数は一つの節目だ。優勝10度には「土俵の鬼」といわれた初代若乃花や常ノ花、北の富士、栃錦といったそうそうたる横綱が名を連ねる。照ノ富士もことあるごとに「ずっと言っている2桁優勝を目指したい」と並々ならぬ意欲を示してきた。 道は平たんではなかった。両膝の負傷や糖尿病を患い、大関から序二段まで転落した。この時期、何度も引退が頭をよぎったという。師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)は次のように明かしていた。「後悔を残してはいけないと思った。気持ちがなえないように前向きな話しかしなかった」。2019年春場所で序二段から本場所にカムバックし、2021年春場所後に大関へ返り咲いた。そして、同じ年の名古屋場所後に第73代横綱に昇進した。 その後、白鵬(現宮城野親方)が引退し、一人横綱が続く。ただでさえ重圧がかかり、加えて両膝に古傷を抱える。部屋関係者によると、まともにそんきょができない状態が継続することもあるという。5月の夏場所を途中休場した照ノ富士について、横綱審議委員会は秋場所まで様子を見るとし、猶予を与えた。だから照ノ富士が名古屋場所出場を表明したときには驚きの声が上がった。それでも初日から白星街道。本人にしか分からない感覚で結果を出した。優勝決定戦では平幕隆の勝の攻めをしっかり受け止めた後で反撃し、寄り切った。いわば横綱相撲で、照ノ富士は「目指してきた相撲が完成した実感が少しある」。休場は増えたが、しばらく地位に君臨する見通しが立った。いつも以上に意義の大きい制覇となった。