【エンタメベスト2023】話数多めでもイッキ観の価値あり!「世界で今、起こっていること」を描きだす傑作海外ドラマ5本
4位:『バリー シーズン4』
これもコメディ……なのですが、打って変わってダークでシュールな一作です。元海兵隊員で凄腕の殺し屋バリー(ビル・ヘイダー)は、父の友人で彼を殺し屋業に導いたフュークス(スティーヴン・ルート)の指示のもとギャングから依頼された殺しを実行していますが、あるときLAで俳優を志すサリー(サラ・ゴールドバーグ)と出会ったことで、著名な俳優であるジーン・クスノー(ヘンリー・ウィンクラー)が主催している演技クラスに入ることになります。 殺し屋がLAで演技に目覚めるという突飛な設定だし、アクの濃いキャラクターが次々に登場し、さらにギャングの抗争のなかでひとがバンバン死にまくるという、かなりぶっ飛んだ話ではあります。ただそのなかで、戦場を経験した人間が抱えるPTSD、恋愛関係や師弟関係における共依存、アメリカン・ドリームのもとに隠された野心と承認欲求といったシリアスなテーマが同時並行的に語られていきます。 とにかく主演・制作を務めるコメディアン/俳優のビル・ヘイダーが圧巻で、彼が抱える苦悩を強烈な顔芸で表現しています。彼が追い詰められていく様があまりにヘビーで、かえって笑ってしまうから恐ろしいったらありません。 フィナーレとなったシーズン4では生き残ったキャラクターたちの顛末が語られますが、僕はある種の濃厚なラブ・ストーリーとして見ました。バリーとサリーだけでなく、バリーとフュークス、バリーとクスノー先生、敵対するギャング同士から恋人になったノホ・ハンクとクリストバルまで、濃密な人間関係には愛だけでなくつねに憎しみが張りつき、献身だけではなく利用と依存がつきまといます。そんな、あらゆるものがグチャグチャに入り乱れた一対一の関係の恐ろしさを、シュールなコメディとして語ったのがこのドラマなのだと感じました。
3位:『メディア王~華麗なる一族~ シーズン4』
原題は『SUCCESSION』。近年、アメリカで社会現象化した大ヒット作です。メディア複合企業を牛耳ってきたロイ家の跡継ぎ問題を主軸にして、大富豪一家の内部の骨肉の争いがエレガントかつアイロニカルに語られます。ベースになっているのはシェイクスピアの『リア王』とドキュメンタリー調のシチュエーション・コメディ。つまり、古典を引用しながら現代の超格差社会を皮肉交じりに風刺したのが本作なのです。 一代にして巨大企業を築き上げた父、ローガン・ロイが遺す莫大な遺産と利権を誰がどのように受け継ぐのか。そこには子どもたちだけでなく、様々な人間が欲をむき出しにして群がってきます。今年配信された最終シーズンでは、そんな人間たちの内輪の醜い争いが、アメリカという国全体をも混乱させる様が生々しく映し出されます。もはやそこに民意などなく、特権階級の傲慢な振る舞いばかりが世界を動かすことになるのです。 しかしながら、金持ちの横暴さや愚かさだけでなく、彼らの葛藤や苦悩――それに「人間性」をも浮かび上がらせるのが本作の見事なところです。格差社会では貧困層だけでなく富裕層を不幸にするという研究があるそうですが、本作でリッチな生活を送る彼らはけっして幸せそうに見えません。 家族や身内同士で争いを繰り返し、虚飾にまみれた生活を送り、心身が蝕まれていくのです。そんな悲しい現実を、恐るべき完成度と巧みなストーリーテリングで面白おかしく浮かび上がらせた歴史的なドラマでした。俳優たちの見事なアンサンブルも見どころです。