『虎に翼』寅子の琴線に触れた航一の言葉 “司法の独立”を目指して奮闘は続く
玉虫色の決着に寅子(伊藤沙莉)が異議を唱える
「全て一気に解決することはできない。でも一つ一つやっていくしかない」という尾野真千子のナレーションを反芻するように、寅子が直面する現実は手ごわい。山の境界をめぐる森口と原(星野亘)の調停は、弁護士の太郎(高橋克実)により明治時代の協定文書が新証拠として示されて終了した。 双方合意して円満解決と言いたいところだが、要は高瀬の言葉を借りれば、事前に話し合って「うまみのある取引がされた」だけではないか。太郎は「まるく収まっていかった」と言い、人のつながりの濃い三條で、皆がいがみ合わないように「この土地流のやり方」で矛を収めていると弁解した。おかげで高瀬も森口から訴えられずに済む。めでたしめでたしではないかと。 和解は紛争解決の有力な手段で、それ自体は否定すべきではない。しかし、力のある者が一方的に自分たちに有利な条件を突きつけることもある。恣意的な解決にゆだねれば、いつまで経っても正確な公図はできないだろう。太郎が「持ちつ持たれつ」と言うように義理と人情は大事だが、たとえ身内でも法律にのっとって公正に裁くことが、最終的な解決につながると寅子は考えたのではないだろうか。 寅子の中にある裁判所のあるべき姿は、桂場(松山ケンイチ)が強調する「司法の独立」に通じる。なお、境界をめぐる争いで江戸時代以前の資料を参照する事例は一定程度あるようだ。このあたりは法律と歴史学が交差する領域である。
石河コウヘイ