乳がん検診で「精密検査」と言われたら、どうすれば?【乳腺外科医が解説】
10月はピンクリボン強化月間。あちこちで「乳がん検診に行こう!」と呼びかけされています。もし、乳がん検診の結果を受け取って、「精密検査」が必要と書いてあったら、どうしたら? どんな検査をどこで受けるの? と不安になる人も少なくないと思います。乳腺外科医の片岡明美先生に、乳がん検診の精密検査について、詳しく聞きました。 〈写真〉乳がん検診で「精密検査」と言われたら、どうすれば? ■乳がん検診で「要精密検査」に。どんな検査を受けるの? 乳がん検診で「精密検査が必要」と言われ、「がんかもしれない」と不安になり、どうしたらいいか戸惑うという声を聞きます。乳がんの精密検査とは、どのようなものなのでしょうか? 「マンモグラフィを受けた人のうち、約10%弱の人が「精密検査を受ける必要がある」と判断されます。乳がん検診は、あくまでもスクリーニングなので、がんかどうかを判定する検査ではありません。精密検査を受けてみなければ、がんかどうかはわかりません。精密検査が必要と言われた人のうち、実際に乳がんが発見されるのは、約10%未満。つまり、精密検査を受けた人のうち90%以上の人が良性なのです」と片岡明美先生。 精密検査が必要と言われても、慌てる必要はありません。“精密検査=がん”ではありません。良性であることを確認するためにも、また悪性の場合は早く今後の治療を始めるためにも、速やかに精密検査を受けてください。 「精密検査は、細胞診か組織診を行います。細胞診は、しこりなどの病変部分の細胞の一部を採取して、がん細胞か否かを顕微鏡で調べる検査です。組織診(針生検)は、細胞診より少しだけ太い針で組織を取って調べるため、細胞診より確実な判断ができます。針生検は、乳がんかどうかの正確な診断につながる大切な検査です」(片岡先生) 精密検査で行われる針生検のひとつ「吸引式乳房組織生検」について紹介します。 ■■【吸引式乳房組織生検】 マンモグラフィや超音波などで病変をみながら、医師が直径2~4ミリの針を刺して組織を抜き取ります。一度に必要な組織が十分取れるため、検査も1回で済み、診断が確定するまでの不安な時間が短くて済みます。がんであった場合は、その後の治療方針の決定などに役立つさまざまな情報が得られます。 ■乳がん検診後に、経過観察と言われたら? 乳がん検診や精密検査を受けた後、その結果で「経過観察が必要」と言われることもあります。経過観察とは、どういう意味でしょうか? 「乳がん検診やその精密検査では、がんの有無がわかるだけでなく、良性の病気が発見されることもあります。乳房にしこりができていたからといって、すべてが乳がんではありません。しこりの80~90%は良性のものと言われています。良性の乳房の病気の中には、乳がんに似たものがあり、治療が必要な場合もあります。また、治療の必要がまったくない良性の病気もあります。また、おそらく良性であるけれども、乳がんの可能性がないかどうか、最終判断がつかないものもあります。その場合は、医師の判断で、最初は6か月ごとに2回、その後は1年後、次は2年後、3年後にマンモグラフィと超音波を行います。3年間、病変に変化がなければ良性と判断して経過観察を終了します」(片岡先生) 経過観察をしている人のうち98%は、良性と言われています。経過観察のあいだに病変の形が変わったり、大きくなったりした場合は、針生検(組織診)を行って診断しますが、乳がんの可能性は2%以下です。経過観察の間、乳がんにおびえる必要はありません。 「しかし、良性に見える乳がんもあるので、医師の指示に従って必ず再検査を受けてください」と片岡先生。 ■乳房の良性の病気とは? 乳房の良性の病気には、どんなものがあるのでしょうか? 「乳がん検診を受けた場合、マンモグラフィや超音波検査で乳がん以外の病気が見つかることも少なくありません。また、セルフチェックでしこりを感じて受診する人の中にも、乳がんではなく、良性のしこりだったということも少なくありません。しこりの80~90%は、良性の病気です。多いのは、乳腺症、乳腺線維腺腫など。ほかに、葉状腫瘍、乳腺炎、乳管内乳頭腫などもあります」(片岡先生) ■■乳腺症 30~40代の女性に多い乳腺の良性の変化で、基本的に経過観察や治療の必要はありません。痛みが強ければ鎮痛剤で抑えます。また、ほとんど、将来がんになることもありません。症状はしこりや痛みで、月経前にしこりが大きくなり痛みが出たりしますが、月経後に縮小します。 ■■乳腺線維腺腫(にゅうせんせんいせんしゅ) 20~40代の若い女性にみられる乳房のしこりで、弾力があり、触ると良く動き、痛みはありません。経過観察や治療の必要はありませんが、セルフチェックで3センチを超えた場合は受診しましょう。手術をすることもあります。 ■■葉状腫瘍(ようじょうしゅよう) 楕円形のやわらかいしこりで、急速に大きくなることが多いのが特徴。ほとんど良性ですが、なかには良性と悪性の中間のものや悪性のものもあります。通常は手術で腫瘍を切除します。ただし腫瘍のみをくり抜いて摘出するだけでは再発しやすく、再発のたびに悪性度が高くなる傾向があるので、腫瘍の周りに正常組織を付けて、腫瘍をくるむように確実に摘出します。 ■■乳腺炎 授乳時に乳腺に滞った母乳が原因で起きたり、乳首から乳腺に細菌が入ることで起こります。乳腺の炎症で、赤く腫れ、痛み、うみ、しこりなどの症状や、高熱が出ることもあります。乳腺内に溜まった母乳やうみを出すために、マッサージ、注射器での吸引、皮膚を切開し、うみを出しやすくする処置が行われることも。 ■■乳管内乳頭腫(にゅうかんないにゅうとうしゅ) 乳管にポリープのようなものができて、ときに乳頭から血液の混じった分泌物が出ることがあります。細胞診などの検査の結果で、手術で切除することもあります。 精密検査やその結果について事前に知っておくことで、不必要な不安を感じずに、冷静に臨めます。乳がん検診について、正しい知識をつけておきましょう。 ■■お話を伺ったのは…片岡明美(かたおかあけみ)先生 がん研有明病院 乳腺センター乳腺外科医長・トータルケアセンターサバイバーシップ支援室長 1994年、佐賀医科大学卒業。九州大学医学部第二外科、国立病院機構九州がんセンター乳腺科などを経て、2016年より現職。日本乳癌学会評議員、日本サポーティブケア学会妊孕性部会部会長。認定NPO法人乳房健康研究会副理事長、認定NPO法人ハッピーマンマ理事。 取材・文/増田美加(女性医療ジャーナリスト)
増田美加