「守れた命…」妻、後悔 福島県内で認知症の夫不明、遺体で発見 自宅介護 目を離した隙に
高齢社会の進行に伴い認知症の患者や、その疑いのある人が行方不明者となるケースが全国で増えている。福島県内に住む70代女性は、長く連れ添った70代後半の夫が昨年末に姿を消し、ひと月半ほど後に遺体で対面した。「守れたはずの命だったかもしれない」。女性は悔いを胸に日々を過ごす。夫の発症からおよそ3年間、自宅で献身的に支えてきたが、目を離した隙の、つかの間の出来事だった。 昨年末のある日。女性が家の玄関先で友人と立ち話をしていたわずかな間に、直前までそばにいたはずの夫の姿が見えなくなった。 「どこに行ったんだろう」と慌てて周辺を捜し、すぐに警察に通報した。警察と消防に近隣住民も加わっての捜索が行われたが、手掛かりがないまま年が明けた。失踪からひと月半ほどたち、自宅から数キロ離れた川向かいのやぶで、倒れている夫が見つかった。 服装などから夫とみられる高齢男性が、家の住所を尋ね歩く姿が目撃されていたという。発見時の状況に不審な点はなく、事件性は確認されなかった。「道に迷ってしまったのかな。見つけてもらえただけでもよかったね」。遺影に語りかける女性の表情にはやりきれなさが浮かぶ。
夫の異変に気付いたのは3年ほど前だ。寝る前に時折、「ここはどこだ」とつぶやくようになった。親しい近所の人の名前を出しても「だんじゃ、それ(誰だ、その人は)」と聞き返された。認知症と診断されたが、散歩が日課で足腰も丈夫だった。要介護の認定は受けなかった。 「自分が認知症とは受け入れられないだろう」。女性は極力、夫から目を離さぬよう寄り添った。散歩に付き添うのを嫌がるため、数百メートル後方から見守った。服薬にも気を配り、症状の進行を遅らせる処方薬を「サプリメントだよ」と伝えて飲んでもらっていた。 夫がいなくなる数カ月前には着用型の衛星利用測位システム(GPS)の利用を友人に勧められた。認知症患者向けの福祉施設の利用も考えた。ただ、夫が気を悪くすると思うと、切り出せなかった。 夫は70歳近くまで会社に勤めた。仕事熱心で家族を支えてくれた。女性は介護が苦ではなかった。 「自分と同じ思いをする人がいなくなるように」との思いから取材に応じた。「お父さんと、もっと一緒にいたかった」。愛する人が飲み残した薬にそっと手を置いた。