『室町無頼』大泉洋、堤真一、長尾謙杜の新たな魅力を引き出した入江悠監督によるアナーキーな時代劇!【おとなの映画ガイド】
活きのいい監督がつぎつぎと新作を生み出し、いま、“時代劇”が熱い。 そんななかにもう一本! 入江悠監督の『室町無頼』が1月10日(金) からIMAX先行公開、1月17日(金) に全国公開される。『SR サイタマノラッパー』や『あんのこと』などで現代社会を見事に映し出してきた入江監督が、直木賞作家・垣根涼介の小説を原作に、これまであまり映画にならなかった“室町時代末期”が舞台の時代劇に挑んだ。主演は大泉洋。コミカルなキャラを完全封印して渋い剣客に扮し、堤真一、長尾謙杜とともに目を見張る殺陣シーンを魅せる。 【全ての画像】『室町無頼』の予告編+場面写真(9枚)
『室町無頼』
タイトルの「無頼」、広辞苑では「正業につかず、無法な行いをする者」とある。ならずもの、ごろつき……完全に悪い奴の雰囲気だが、この作品の主人公たちは、少しニュアンスがちがう。西部劇の「アウトロー」に近く、自由な生き方をしている腕っ節の強いヤツら、といった感じ。 室町幕府の滅亡寸前、戦国時代の幕開けとなった応仁の乱が起きる5、6年前。時代そのものがブッ壊れかけている。天候は雨が降らず乾ききり、飢饉と疫病が続き、街は死者や浮浪者であふれかえっている。そんな、ほぼ無政府状態のなかで生きた、無頼たちの物語である。 原作は、室町幕府の開祖・足利尊氏を描いた『極楽征夷大将軍』で直木賞を受賞した垣根涼介の同名小説。物語の中心になるふたりのアウトローは実在した人物だ。といっても、歴史書にちらっと名前が登場するだけの存在。日本史の教科書にでてくる偉人ではない。 大泉洋扮する蓮田兵衛は、1462年に起きた一揆の大将。己の腕と才覚だけで、自由自在に動き回り、世直しをめざす、いわば革命の闘士。堤真一演じる骨皮道賢は、幕府から京都の取り締まりと治安維持を任され、300人もの荒くれ者を束ねている武装集団の頭目。ふたりはもとは無頼の徒だが、実は旧知で、密かにおたがいを認めている悪友同士という設定だ。 まず、蓮田兵衛のキャラが面白い。腕が立つ。頭が切れる。クールな一匹狼にみえるが、仲間との絆を大切にするオルガナイザー。そして何よりも夢の実現に一途な、信念のひとである。企画・プロデュースの須藤泰司は「大泉洋史上最高にカッコイイ男を演じてほしい」と口説いたという。 たしかに、この作品の大泉は、革命家ということもあり、どこか謎めいていて、過去作品とくらべれば物静か。それでいてやるときはやる剣豪だ。 蓮田兵衛が目指す革命への道と、それに立場上抗わざるをえない骨皮道賢との戦い。そこに、高級遊女・芳王子(松本若菜)、時の権力者である八代将軍義政(中村蒼)、有力大名(北村一輝)が絡み、室町末期、波乱の時代を生きた人間模様が描かれるというわけだ。 映画のもうひとつの柱が、長尾謙杜扮する才蔵のストーリー。天涯孤独の身の上、飢餓と戦いながら自己流で棒を振り回す乱暴者が、骨皮と蓮田に見いだされ、男として、武芸者として成長していく姿を追う。 才蔵の潜在的な能力を見込んで、蓮田が弟子入りさせるのが「唐崎の老人」なる“棒術”の達人。柄本明が演じる仙人のような老師が課す地獄の特訓は、さまざまな映画の珠玉のワンシーンをほうふつとさせる。『スター・ウォーズ』のルークとヨーダ、宮本武蔵などの日本の剣豪の修行時代や、カンフー映画の超人ヒーローたち……。 不安を抱え行き場のなかった若者が、過酷な稽古で六尺(約1.8m)もの棒を操る一級の武者となり、乱世を生きる無頼の面構えに変化していく──。クライマックスのバトルシーンでは、長尾謙杜の身体能力が光る。 そんな人間たちのドラマに加えて、この映画の大きな魅力が、室町末期という時代設定である。約束ごとの多い江戸時代のチャンバラや、英雄たちの国盗り物語と生き様が中心の戦国ものにくらべ、クリエーターにとっては自由な発想を持ち込むことができる。 これまで観たことのない未知の時代の映像化で力を発揮したのは、やはりこのところの時代劇ブームを支える東映京都撮影所だ。 例えば、荒野のアクションシーン。入江悠監督がイメージしたのは、広大な砂漠でド派手なアクションが炸裂する『マッドマックス』シリーズのような世界。大麦を焙煎した合計600kgの“はったい粉”を送風機で送り込み、砂塵舞う風景が現出した。 さらに圧巻なのは、撮影所に建てられた680坪におよぶオープンセットに作られた、一揆で打ち壊しにあう当時の京都。 セットだけではない。いかにもその時代“らしい”、エキストラ延べ5000人を含む出演者のメイク、衣裳、小道具など、撮影所の職人たちの仕事の結晶が随所にみられる。 伝統の上につくられた、すこぶる新しい、アナーキーな時代劇、そんな感じの作品。東映作品としては初めてとなるIMAX公開があるのも楽しみだ。 文=坂口英明(ぴあ編集部) 【ぴあ水先案内から】 笠井信輔さん(フリーアナウンサー) 「……人気絶好調のなにわ男子、長尾謙杜。線の細いアイドルのようだが、これが強い! 特にラストにおける長回しのアクションは大変な見所となった……」