都知事選のカギは「女性票」だと思う 「百合子」と「蓮舫」と“リベラル”の嘲笑 北原みのり
作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は東京都知事選について。 【写真】ものすごい人だかり!都知事選”第三の男”石丸伸二氏の演説を聞く聴衆らはこちら * * * 東京都知事選まっさかり。先頭を走る小池百合子氏に蓮舫氏がどんどん追いつき、蓮舫氏の後ろに石丸伸二氏の息づかいが感じられるような今、あと数日で東京の空気はどう変化していくだろう。 読売新聞の調査(6月28日~30日)によれば、「有権者の5割近くを占める無党派層は、3割が小池氏を支持。蓮舫氏と石丸氏を支持する無党派層はともに1割強だったが、石丸氏がやや上回った。男女別では、小池氏は男女ともに支持が厚めで、蓮舫氏と石丸氏は女性の支持が少なめだった」。毎日新聞の調査(同29日~30日)でも小池氏は30~60代の幅広い支持を受け、男女別では女性からのかなり強い支持があるという。そして「若者支援」を訴える蓮舫氏の最も厚い支持層は70代以上である。 支持政党のない無党派層や女性たちは百合子(すみません呼び捨て)を、(原稿を書いている7月3日の時点では)選んでいるのだ。 まだ数日ある選挙戦で風が変わるかどうかはわからないが、女性票をこれだけ掴む百合子人気とは何なのか。また、蓮舫氏が小池氏ほど女性の支持を得られていないとしたら、いったいなぜなのだろう。 数日前、街を歩いていたら選挙カーが背後からやってきた。やる気のない男性の声で、「今の日本、変えたいじゃないですか~」とダラダラと話している。あ、つばさの党が来た!と思った。ダラダラとした男の喋り=つばさの党、私のイメージである。その後に続けて「れんほー、あの顔で、予算8.5兆円の都庁に乗り込むんですよ~、変わらないわけ、ないじゃないですか~」とダラダラと話している。「ああ、やっぱりつばさの党か」と思っていたら、「れんほー、れんほー、れんほー」と男性の声が続けて言うのであった。驚いた。蓮舫氏の選挙カーであった。
勝手な言い分だが、もし、蓮舫氏の女性人気が小池氏ほどないのだとしたら、こういうところ、なのかもしれないと思う。蓮舫氏が、というよりは、蓮舫氏が背負う世界のどこかマッチョな左翼臭さ、というか。少なくとも私が聞いた選挙カーの声からは自分たちのリーダーになるかもしれない女性に対する敬意のなさがにじみでていた。「あの顔で~」(←文脈上、怖い顔で、という意味であろう)と言いながら、本当は怖がっていない。「あの顔で~」と、候補者を顔一つで表現するような応援演説は、女性候補者にしか与えられない表現だろう。 SNSでは「社会を変えたい」という若者たちや、一人で街に立ち蓮舫氏への投票を訴える若者たちの動きが広がっているように見える。一方で、小池氏への嘲笑や貶め方に興じるリベラルな人たちの投稿も多く見られる。いくら正しいことを言っていたとしても、“そういう差別”に女性たちは敏感だ。“そういう差別”に日常的に晒され疲れている女性たちの直感のような嫌悪は、バカにできないのだ。 ふと、8年前、小池氏が圧勝した都知事選と、構造的にはあまり変わっていないのではないかと不安がよぎる。8年前、リベラルな政治をのぞむ人々は鳥越俊太郎氏を擁立した。その後、週刊文春が鳥越氏のセクハラ問題を報じてもなお、ふだん性暴力被害者支援をしている団体や、著名なフェミニストたちはこぞって「まずは、政治を変えなければ」「分断している場合ではない」と鳥越氏支持に回った。あのとき、無党派の女性支持はほぼ小池氏に回り、圧勝だったのだ。しかも、ありったけのリベラル著名人が応援し、支持母体がありながらも、鳥越氏は2位ですらなかったのだ。 当然だが、蓮舫氏は鳥越氏の状況とは全く違う。ただ、投開票1週間前の調査で、30~60代の全ての層で女性からの百合子人気が高いという事実について、リベラル政党の人たちにはぜひ考えてもらいたいと思う。なぜ、弱者に厳しく、女性にだって決して優しくなく(というか興味なく)、残虐な歴史を直視せず、キラキラしたイベントに予算を費やし、都心の歴史ある自然を破壊するような計画を立て、公約を完全には一つも守っていない都知事なのに、小池氏のほうが蓮舫氏より良い、という女性がこんなにもまだいるのかという事実。