「健康診断で腎機能障害を指摘」その後にやるべきことを知っていますか? 沈黙の臓器“腎臓”の機能について
健康診断で腎機能低下や腎機能障害を指摘されたら…腎臓が引っかかる主な原因・理由とは?
編集部: 健康診断で腎臓の数値に引っかかる原因として多いものは何ですか? 青柳先生: 尿検査をしたときにたまたま腎機能が悪化している場合もありますが、なんらかの原因で腎臓が正常に機能していないことが考えられます。 身近な原因としては、高血糖や高血圧が続いて起こる糖尿病性腎臓病や高血圧性腎硬化症など生活習慣などの管理が中心となるものと、IgA腎症、膜性腎症、急速進行性糸球体腎炎、多発性嚢胞腎、ループス腎炎など専門的な治療が必要なものとがあります。 編集部: 尿検査をしたときにたまたま、ということもあるのですね。 青柳先生: 健康診断を受ける日は、前日からの絶飲食で脱水になっている場合があり、その影響で腎機能が悪化していることがあります。 一時的な異常であれば、問題ありません。 腎機能の再検査を受ける場合は絶飲食にする必要はないため、通常通り飲食した状態で検査を受けて下さい。 編集部: それでも異常値が続くのは病気ですか? 青柳先生: そうですね。再検査をしてもeGFRが60ml/分/1.73㎡未満の状態や蛋白尿が3ヶ月以上続いている場合、慢性腎臓病と診断されます。慢性腎臓病を放置すると、むくみやすくなったり、疲れやすくなったりなどの症状がいずれ現れます。 編集部: どうして慢性腎臓病となるのですか? 青柳先生: 加齢によることもありますが、慢性腎臓病となる原因は糖尿病や高血圧、慢性糸球体腎炎が多く、まれに遺伝性の腎臓病や自己免疫性疾患に伴う腎臓病というケースもあります。放置しておくと、透析の導入が必要になる可能性も高くなります。 参考: 日本透析医学会, わが国の慢性透析療法の現況(2021 年 12 月 31 日現在) https://docs.jsdt.or.jp/overview/file/2021/add/03.pdf
腎機能低下・腎機能障害になったら治療できる? 医師が慢性腎臓病・腎不全の改善方法や食事の注意点を解説
編集部: 腎機能を維持するためにはどうしたら良いでしょうか? 青柳先生: 腎臓は、かなり悪くなるまで症状が出にくい臓器です。健康診断などで腎機能低下を指摘される、高血圧や糖尿病を長く罹患している方などは、自覚症状がなくても、一度腎機能を専門にしている医療機関に相談することをおすすめします。 また、たんぱく質や塩分の過剰摂取を控えることはもちろん、日常的な運動・バランスの良い食事など、いわゆる基本的な「健康的な生活」を心がけましょう。 そして、適度に水分を補給することは良いのですが、あえて水を沢山飲むことはしないで下さい。逆に腎機能を悪化させてしまう可能性があります。 編集部: お酒やタバコ、コーヒーなどの嗜好品はやめたほうが良いですか? 青柳先生: アルコールは少量であれば腎機能への悪影響はないとされていますが、おつまみの多くは塩分が多いので摂りすぎに注意して下さい。タバコに関しては、肺がんや脳卒中、虚血性心疾患などのリスクや腎機能を悪化させる危険もありますので、禁煙しましょう。 コーヒーは、腎機能保持に良いとする報告もあるため、過剰に摂取しなければ良いかと思います。 ほかには、感染をきっかけに腎機能が悪化することもよくありますので、手洗いや換気、必要に応じたマスクの着用などを意識してください。便秘予防や口腔内に菌を繁殖させないための口腔ケアも重要です。 編集部: 腎臓専門の医療機関では、どんなことをしますか? 青柳先生: 腎臓の専門医による問診や検査結果などから、リスクが高いと思われる生活習慣病の予防法の指導、管理栄養士による栄養指導、必要とされる薬剤の処方など、多角的なアプローチが受けられます。ここで重要なのは、腎機能が悪い原因を推定することです。 家族に同じような腎疾患をお持ちの方がいないか、糖尿病や高血圧などの併存疾患はないか、腎機能障害や検尿異常はいつから指摘されていたかを問診し、二次性の腎疾患をきたす全身疾患のスクリーニング検査、腎や尿路に異常がないかの画像評価などを行います。 編集部: 腎機能障害の原因がわかったら、どのようなことをしますか? 青柳先生: 例えばIgA腎症に対しては副腎皮質ステロイド薬、多発性嚢胞腎に対してはトルバプタン、ファブリー病に対しては酵素補充療法など、それぞれの病気に特異的な治療を行います。 また腎機能を悪化させないための治療薬としては、従来RA系阻害薬(ACEI/ARB)や球形吸着炭がありましたが、最近は、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬やSGLT2阻害薬など有効な治療薬が新規に続々と開発されています。 早期に治療を開始すれば、一生透析を避けることも可能な時代になってきています。 編集部: 管理栄養士による栄養指導は、例えばどんな指導がありますか? 青柳先生: たんぱく質制限および塩分6g未満の制限が基本です。若年で太り気味の方は、栄養過多で腎臓に負荷をかけている場合が多いので、たんぱく質制限と塩分制限を意識してもらいます。 一方高齢で痩せ気味の方は、過度の食事制限で栄養状態を悪化させないように、エネルギー摂取を意識してもらいます。 野菜・果物などはカリウムが豊富に含まれているので一律に制限されがちですが、便通を改善しカリウムを便から排出されやすくさせる、代謝性アシドーシスを改善する、腸内細菌のバランスを改善して腸腎連関へ好影響があるのではないかと言われているので、必ずしも制限することはありません。 ただし、カリウムが上昇しやすい薬を服用している場合は、調理方法を少し工夫しましょう。カリウムは水に溶けやすい特徴があるので、水にさらす、一度茹でこぼすなどで低減できます。 また、最近は減塩の調味料を検討する方が増えていますが、代用塩はナトリウムの代わりに塩化カリウムが使用されているため、腎機能低下がある場合は使用しない方が良いでしょう。 編集部: 最後に、読者へのメッセージをお願いします。 青柳先生: 腎臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、腎機能が極めて悪くなるまで自覚症状が出ません。慢性腎臓病は早期発見・早期治療が有効ですので、定期的に健康診断を受け、腎機能障害を指摘された場合は速やかに医療機関を受診して下さい。 尿蛋白2+以上あるいは血尿を伴う蛋白尿、eGFR40ml/分/1.73㎡以下(40歳未満では60以下)の場合などは、腎臓専門医の診察を受けることをおすすめします。