「チェルシーもか…!?」さまざまな別れを見届け続けた「お菓子屋パンクロッカー」の思い
「チェルシーもか!?」 明治のキャンデー「CHELSEA(チェルシー)」の3月での販売終了のニュースに、そんな衝撃を受けた消費者は少なくないだろう。時代を超えて親しまれてきたロングセラー菓子が、またひとつ、われわれの前から姿を消すこととなった。 【懐かしい…!】都こんぶ、ボンタン飴、クッピーラムネ、チロルチョコ… 近年販売終了した人気ロングセラー菓子といえば、同じ明治では、「サイコロキャラメル」(’16年全国販売終了)や「わたパチ」(’16年販売終了)、「ひもQ」(’19年販売終了)、「キシリッシュ」、「プチガム」、「もぎもぎフルーツグミ」(いずれも’23年販売終了)などがある。大正時代から販売されてきた清涼菓子「カルミン」も’15年に販売終了。そして、’17年のスナック菓子「カール」が東日本での販売を終了したことも、当時大きな話題を集めた。 もちろん明治ばかりではない。 ・キスミントガム(江崎グリコ・’18年販売終了) ・森永チョコフレーク(森永製菓・’19年販売終了) ・らあめんババア(よっちゃん食品工業・’20年販売終了) ・サクマ式ドロップス(佐久間製菓・’23年廃業) ・きかんしゃトーマスとなかまたちチューイングキャンディ(ロッテ・’23年販売終了) などなど…… 駄菓子界の大ロングセラー「元祖 梅ジャム」(梅の花本舗)も、’17年に創業者の高齢を理由に一代限りで生産を終了しニュースなどで取り上げられたことも記憶に残る。 「いつもそこにある」当たり前のように思っていた存在が、気づけばもう会えない存在となっている。とはいえ、自分もそのひとりかもしれないが、販売終了を惜しむ声のなかには、実際には何年も食べていなかったりする人も多数いるのだと思う。 この先も、チェルシーのようにある日突然お別れを告げられる日が来るお菓子は明日にでも出てくるかもしれない。後悔先に立たず、「推しは推せるうちに推せ」という言葉もよぎる。自分にとって懐かしいお菓子は、大切な存在であることをもっと意識したほうがいいのかもしれない。 ◆「サイコロキャラメルは寂しかった」 そんな数々の「別れ」を、売り場から見守ってきた側の思いはどうだろうか。 東京・八王子。駅前の喧騒を抜けたあたりに、昭和26(1951)年の創業以来地元住民に親しまれ続けてきた老舗菓子店「藤屋菓子店」はたたずむ。3代目店主の「あっちゃん」こと井上篤さんは、そんなロングセラー菓子とのお別れを、 「あんなに美味しいのにな、と毎回寂しい気持ちにはなりますね」 と店内を優しい視線で見渡す。最近では「サイコロキャラメル」の販売終了がとくに寂しかったという。 「地元のお祭りのときなんかに、子供たちにお菓子の詰め合わせを作って配るんです。 サイコロキャラメルは必ずといっていいほど入れていて、子供たちにも人気ある、思い入れあるお菓子でした」 藤屋の店内には、昔ながらのもの、最新の人気のお菓子・駄菓子がギッシリ並ぶなか、フィギュアやCD、LPレコード、スナップ写真、ポスター、ライブのフライヤー……さまざまなモノがあふれかえる。あっちゃんは、藤屋の3代目であるいっぽうで、今年で結成40周年を迎えた人気パンクバンド「ニューロティカ」のボーカリストとしての顔も有名だ。 ロティカファンにとっては、“あっちゃんのお店”藤屋は、全国からファンが訪れる聖地としての顔ももつ。ニューロティカの曲にも『おかしなおかしなお菓子屋ロックンロール』という曲があったり、最新アルバム『ピエロイズム』にも、『藤屋ミュージアム』という曲が収録されていたりする。まさに、お菓子を売るパンクロッカーである。 バンドマンとしてのあっちゃんは、ステージ上では、ピエロの姿でパフォーマンスする。その原点が、店で売られていた懐かしいお菓子にあった。 「今はもう売っていないんですけど、『トンガリ帽子』という、中にクリームが詰まった三角すいのお菓子があったじゃないですか。 実はその袋にピエロが描かれていて。10代のころ、店の手伝いで陳列しているときに、あ、コレ面白そうだな! って思ったのがはじまりなんです」 多くの人に愛されるバンドの原点は、やはり多くの人に長年親しまれてきたお菓子のパッケージにあった。 ニューロティカは、いまや親子2代にわたるファンも少なくない。子供のファンの手による「絵」が何枚も店内に貼られているところからも、バンドがどのように愛されているかがよくわかる。 ◆再発売や再結成という喜びが訪れることもある! ガムやキャンディーの需要がグミやタブレット菓子に押されるなど、時代の流れもある。梅ジャムやサクマ式ドロップスのような後継のための問題もある。あっちゃんは、それら愛すべきお菓子たちとのお別れは、「それぞれの会社の事情、時代の流れはあるでしょうしね」と受け止める。 やはり終売のニュースが流れると、それを買い求めに来る客は突然増える。 「飲食店の廃業やローカル線の廃線なんかもそうかもしれませんよね。それまでに普通に来てくれたり買ってくれたりすればなぁと思いますが、それは仕方ないですよね。自分は後ろを振り返らないほうなので!」 ついついバンド活動と重ね合わせてしまうが、ニューロティカ40年の活動の歴史の中で、数多くのバンド仲間たちの解散や活動休止、数多くの別れを見届けてきているわけだ。 「バンドもそれぞれの事情ありますから(笑)。 お菓子も時々復活することがありますが、それってバンドの再結成みたいでうれしいですよね。基本的に消費者もバンドファンも、バンドマン自身も、みんなわがままなんですよ(笑)。 だけどそれでいいんじゃないですかね、再発売や再結成、また会えたときにうれしかったと思われれば一番だと思います。ニューロティカのファンとしてお店に来てくれて、忘れていたけど懐かしいお菓子を見てうれしそうにしている姿が見られるのがなによりです」 都こんぶ、ボンタン飴、クッピーラムネ、チロルチョコ、うまい棒、マルカワのフーセンガム、モロッコヨーグル、さくらんぼ餅、オリオンコーラ、ココアシガレット…… 小さなころからずっとそこにいてくれるお菓子だって、同じようにある日消えてしまうことはある。シリーズそのものは残っても、好きなフレーバーが姿を消すというパターンだってある。メジャーメーカーの看板菓子だって、チェルシーやチョコフレークのようなこともこの先訪れるだろう。 お菓子の「レッドデータブック」のようなものを設けて、保護種指定をしていくべきではないか、そんな思いにかられる。 ◆お菓子屋ロッカー・あっちゃんが選ぶ、この先も残したいお菓子とは……? あっちゃんに、老舗菓子店の3代目として、絶対に守っていきたい、いわば「お菓子遺産」のような商品は何ですか、そうたずねると、店頭に並ぶたくさんのお菓子のなかから、薄焼きクッキー「木の実のもえぎ野」(ちぼり)、袋入りの焼き菓子「ソフトチソパン」(荻原製菓)、ニューロティカのファンが製造し、パッケージにピエロの絵が描かれている「ふじやのくず湯」(恵夢経恵寿)といった、ごくごく素朴なお菓子をいくつか指さした。 「コンビニやスーパーではあまり売っていない、大手のメーカーのものではないけれどとても美味しくて、近所のおばあちゃんとかが楽しみに買いに来てくれる。そういうお菓子がずっと続いてくれるとうれしいですね」 そう語るあっちゃんの眼差しに、ロティカのライブで時折感じるやさしさ、あたたかさと同じようなものを感じた。 お菓子にも永遠はない。いつかの別れに悲しまないように、時々お菓子売り場で足をとめてみよう。「藤屋ミュージアム」を聴きながら、そんなことを考えたりした。 取材・文:太田サトル ライター・編集・インタビュアー。学生時代よりライター活動を開始、現在はウェブや雑誌などで主にエンタメ系記事やインタビューなどを執筆。
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