栁俊太郎「リズムで芝居をする感じが面白い」ベーシスト役で感じた音を奏でる楽しさ:インタビュー
俳優の栁俊太郎が、映画『バジーノイズ』(5月3日公開)に出演。一度は決裂した清澄(演・川西拓実)と再びバンドを組み、音楽の楽しさを取り戻すベーシストの大浜陸を演じる。原作はビックコミックスピリッツで2020年まで連載された、むつき潤氏の「バジーノイズ」。ドラマ『silent』や映画『チェリまほ』の監督、風間太樹氏が実写化した。ミュージックコンセプトデザインとして藤井風の全楽曲、iri、SIRUP、Awesome City Clubなどのプロデュースで知られ、映画音楽も手掛けるYaffleが参加。インタビューでは大河ドラマ『どうする家康』や映画『ゴールデンカムイ』出演で話題の栁に、本作の撮影エピソードから、ベクトルが変わったという仕事と向き合う姿勢について、話を聞いた。(取材・撮影=村上順一) 【写真】栁俊太郎、撮り下ろしカット ■ベースの練習期間はとても濃い時間だった ――本作に出演が決まった時の心境は? 風間監督とご一緒してみたいと思っていたので、楽しそうだなと思いましたし、嬉しかったです。役としてはまずベースを頑張らないといけないなと思っていて、そこから原作を読んだのですが、絵に余計な線が入っていない、いい意味で無機質な雰囲気のある作品だなと思いました。伝えられない感情を音に乗せて伝える、というのが描写から伝わってきました。実写でこれを表現したらすごく面白い作品になるんじゃないかと思いました。 ――今回ベースをプレイするところがポイントになってくると思います。 音にストイックな作品だと思ったので、演奏のクオリティが低いと説得力がなくなるなと思いました。風間監督は演奏のクオリティを求めていると感じたので、ベースはかなり練習しました。 ――練習期間はどのくらい? 1カ月半ぐらいはあったと思います。 ――1カ月半とは思えないクオリティですよね! とはいえ決まった曲しか弾けないんですけど。教えていただいていた先生の家が歩いて行ける距離だったので、用意してもらった時間以外にも通って練習していました。また、楽器ってたくさん弾くと指から血が出るんだと知りました。でも、とても濃い時間でした。 ――短期間で集中してやっていたんですね。プレイしている姿などモデルにされたベーシストはいましたか。 何人か参考にしました。僕はもともとバンドが好きで、ライブ映像とか日頃から観ていたので、なんとなく弾き方だったり、パフォーマンスの仕方はわかっていました。 ――今回ドラムは、岬役の円井わんさん。わんさんはドラムを元々趣味でやられていて、すでにドラムは叩けたわけですが、今回一緒に演奏されてみていかがでした。 撮影で叩いている姿を見てやっぱり動きが全然違いましたし、すごく上手かったです。ただ、ミスとかドラムが一番バレるなと思ったので、これは大変そうだなと思いました。 ――同士的な気持ちには? なりました。決してセリフが多い映画ではなく、演奏で通じ合うみたいなシーンが多かったです。ライブシーンでは会話をせず、リズムで芝居をする感じがすごく面白いなと思いましたし、チーム感みたいなものを感じました。お互い楽器を練習して頑張っていたので、わんさんと分かち合えたところもあると思います。そして、ライブシーンはすごく気持ちよかったです。 ――さて、陸をどう捉えて演じられていましたか。 熱い人間なんですけど、不器用なところもあります。ただプロデュース能力みたいなところはとても長けていて、今の音楽業界にいそうなタイプだなと思いました。音楽を1人でゼロからできてしまう時代だからこそ、クオリティを求め、人間関係でギクシャクする姿とか、陸のような人はすごくリアルだなと思いました。 ――表情が豊かで可愛らしい面もありますよね。 ピュアな人だと思いました。音楽に対してもそうだし、人としてすごくピュアだからこそ、いろいろ考えて口数が減ってしまう。僕が今までに出会った役の中でも愛せる役でした。 ◾︎ すごくピュアで透き通っている ――共演された川西さん、どのような印象がありましたか。 JO1のキラキラしたイメージがあったのですが、実際に会って話しているうちに、家では1人でトラックを作ったり1 人の作業が好きみたいで、清澄タイプの人間だということが話している中で分かりました。ちょっと天然なのかな? と感じるところもありつつ、すごくピュアで透き通っている方で、心の中に秘めているものが多い方だと思いました。 ――どんなやりとりをされました? 現場での川西くんは少年みたいな人で、後ろからちょんって叩いてきて、知らん顔をする、小学生がやるようないたずらをしてきて、「おい、なんだよ(笑)」みたいなやりとりがありました。 ――どこか弟みたいな感覚も? そういう感じはありました。また、彼は周りをほっこりさせるパワーを持っているので、多くの人から愛される人だなと思いました。 ――桜田ひよりさんや井之脇海さんの現場での雰囲気はいかがでしたか。 桜田さんは落ち着いていて、芝居 1 回 1 回手を抜かない、ベテランのような頼もしさがありました。海くんも安定感がすごくあって、芝居に関してもすごくストイックだし、監督と会話しているのを聞いて大人だなって。この2人がすごく大人に感じました。僕は割と適当なところがあるんです。年齢は自分の方が上なのですが、性格的には抜けちゃってるんで(笑)。2人ともキャリアが長いので、小さい頃からやってきた気持ちの強さみたいなものがあると思いました。 ――今回この作品の出演を経て音楽をやってみたい、といった気持ちになったりしましたか。 「ベース買います」みたいなことを監督に話したんですけど、実際はまだやれていなくて。この作品へのモチベーションかなり高かったので、いまはちょっと休みたいと思いました。今回は撮影へのモチベーションがあったから集中してやれたんですけど、バンドとか組んでいないとベースの音だけでずっとやるのは難しいなと思いました。それは、ピアノやギターだと弾き語りしたりできると思うんですけど、ベースを1人でやられている方はかなりストイックだと思います。 ――ということはバンドに誘われたらワンチャンありますね! あります。それこそ風間監督はギターを買ったと仰っていました。もともとギターはやっていたとのことで、この作品を経てまたやりたくなったみたいです。風間監督から「バンドやろう」とか誘っていただけたら、やるかもしれないです。 ――川西さん演じる清澄がやっていたようなDTM(デスクトップミュージック)はいかがですか? DTMに関しては全くわからないから、ちょっと僕の性格上ゼロから始めるのは難しいです。ある程度教えてもらわないとダメなんです。今回ベースに関してプレッシャーがすごくあって、「こいつ全然弾けないじゃん」と思われることが一番ダサいと思っていたので、投げ出さずにやれたところもあります。 ――追い込まれた方がいいんですね! そうなんです。追い込まれないと宿題もやらないタイプでした。学生時代のテスト勉強とかもギリギリにやり始めて、一晩で詰め込むタイプでした。 マネージャーとの連絡も仕事が関わっていたほうが返します。休みの日ほど面倒くさくなってあと回しにしてしまうところがあります。いまだにスイッチの入れ方がわからないんです。忙しければ、スイッチ入った状態のままできますが、1 回スイッチを切ってしまうと僕はダメです。 ◾︎ 役者の芯の部分を追求 ――音楽はローリング・ストーンズとかお好きだと思うのですが、自分から切り離せない音楽はありますか。 ローリング・ストーンズは長いことやっているというのもあって、どの感情にも合う曲があるんです。常に自分のプレイリストに入っています。また、THE BLUE HEARTSも大好きです。小さい頃から聴いていましたし、何か気づかせてくれることがたくさんあります。 ――過去のインタビュー読んだ時に、栁さんの芝居、アクションの動きなどロックスターからインスパイアされているところもあると知って、おもしろいなと思いました。 基本的なアクションの型はありますが、動き方や間の取り方というのはオリジナル性を入れていかないと面白くないので、そこは動物だったりロックスターのライブでの動きを参考にしています。なんでこんな動きしているの? と思えるものが多いので、面白いんです。 ――さて、最近仕事に対するベクトルが変わったという記事を見たのですが、どのような変化があったのでしょうか。 1年ほど前からなのですが、仕事に対してより真面目になったといいますか、芝居に対してより向き合うようになりました。モデルをやっていたので、昔は格好だったり外側を気にしていたところがありました。モデルは割と外側の部分を意識する職業だと思っていて、それはそれで楽しいし、そこを追求するのがプロフェッショナルだと思うんです。役者となるともっと内側、芯の部分を追求してモデルとは違う部分に対してもっとストイックに向き合えるようになってきました。 ――役者としての本質を追求するようになってきたわけですね。それこそ『バジーノイズ』の撮影時期と、意識が変わった時期は同じくらいだったんじゃないかなと。 そうですね。ベースの練習に追い込まれながら、その意識があったからこそ、ここまでの結果が出せたんじゃないかなと思っています。 (おわり)