イスラエルとハマスの武力衝突による犠牲者数は3万人近く…遺族、軍関係者が語る「戦争の終着点」
広大な荒野に無数に立つ細い木片。その先端にはカラー印刷された若者たちの顔写真が付けられている。写真の中の人々はどれも笑顔だが、それを眺める訪問者の表情は一様に暗い。それもそのはずだ。ここは昨年10月7日、イスラム原理主義組織ハマスにより364人が殺害され、40人が拉致されるなど″虐殺の地″となった野外音楽フェス『スーパーノバ』の会場だからだ。 【観覧注意】父親の遺体にキスする子供、病院は死傷者で溢れかえり…「地上侵略」緊迫の現地写真 開戦から4ヵ月が経過したイスラエルとハマスの武力衝突。日本ではあまり報じられることがなくなった戦地の今に迫るべく、2月上旬、私は戦時下にあるイスラエルに入った。大都市テルアビブから1時間ほど南下したレイム地区にある音楽祭跡地。現在は集団墓地となり、木の棒を組み合わせた質素な墓標が建てられている。訪れるのは入場を許可された遺族や兵士などだ。弔問に訪れた中年男性が嘆く。 「なんの罪もない21歳の娘がここで突然銃殺された。あの朝、娘が電話に出ないから胸騒ぎがしたんだ……。平和祈念のための音楽祭でテロリストに殺されるなんて、心の整理などできるはずがない。だから今でも時間を見つけては、ここに足を運ぶんだよ」 その後、ガザ地区に近いキブツ(農業共同体)を歩いた。ガザ方面からは数分ごとに爆音が轟(とどろ)き、上空には忙(せわ)しなく軍用機やドローンなどが飛び交う。そのせいか、土の臭いに混ざり、かすかに火薬のような臭いが鼻をつく。キブツを案内してくれたイスラエル軍のマヤ大尉は、「これは映画のワンシーンなんかじゃない。ここは今も交戦が続いている戦場だ」と語気を強めた。 訪れた南部の集落クファルアザはハマスに襲われた殺戮(さつりく)現場の一つだ。家族を失った19歳のエラさんは静かに語る。 「叔父は私の目の前でハマスの戦闘員に撃ち殺され、従兄はどこかに連れ去られ、今もまだ見つかっていません。結局、このキブツで暮らしていた親族のうち4人が殺され、子供2人を含む7人が誘拐されました。彼らが無事に戻ってくるその日まで、私の戦争も続くんです」 マヤ大尉は「10月7日に行われたハマスによる攻撃の後も、一般のガザ市民がバイクなどでキブツに大勢で現れ、殺人やレイプなどを行い、家から物品を奪って行った。犠牲者の中には女性や子供もいました」と憤りを隠さない。 一方で、イスラエル軍の猛攻を受けるガザ地区でも犠牲者は増加している。軍事活動に従事していた関係者が、内部の凄惨な現状を語る。 「避難民の多くは簡易テントなどで暮らしながら爆撃の恐怖に怯(おび)えている。食料も薬品も不足し、腹を空かせた野良猫が爆撃で死亡した人の遺体の一部を食べているくらいだ」 ガザ保健当局の発表によると、これまでの戦闘におけるガザ地区での犠牲者数は2万8473人に上るという(2月14日時点)。またイスラエル側も1200人以上が死亡。134人が拉致され、現在も安否不明のままだ。 しかし、どれだけ血が流れても戦争終結の目処(めど)は立たない。2月13日からは両者間で一時的な休戦に向けた交渉が始まったが、議論は平行線をたどっている。イスラエル軍高官は、「我々はいつまでかかってもいいと考えている。人質の解放をハマス側が受け入れない限り休戦が実現することはまずない。いずれにせよ、ハマスは殲滅するつもりだ」と明かした。 実際に取材する中で、近い将来に両者が妥協する気配は感じられなかった。戦争が長期化することは避けられず、1年以上に及ぶ可能性も出てきた。終わりのない地獄の最大の犠牲者は民間人だ。冬の曇天の下、イスラエルに一刻も早く春が来ることを願わずにはいられなかった。 『FRIDAY』2024年3月1・8日号より 取材・文:山田敏弘(国際ジャーナリスト)
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