リー・カンション“共演”した牛に蹴られる「彼女は人見知りなんです」【第37回東京国際映画祭】
第37回東京国際映画祭のアジアの未来部門に選出された「黒の牛」が11月3日、東京・TOHOシネマズ日比谷で公式上映された。第14回「京都映画企画市」映画企画コンテスト会場で上映された同名のパイロット版を長編化。日本、アメリカ、台湾の国際共同製作で、70ミリフィルムを一部使用し撮影された。上映後には、蔦哲一朗監督(「祖谷物語 おくのひと」)、主演を務める台湾出身の俳優リー・カンションが、観客とのティーチインに応じた。 【写真たくさん】米倉涼子はオフショルドレスで美デコルテ披露 東京国際映画祭レッドカーペットの様子 禅に伝わる悟りまでの道程を十枚の牛の絵で表した「十牛図」から着想を得た本作。自然との繋がりを見失った狩猟民の男は、自分の分身とも言える牛と出会い、大地を耕しながら、木、水、風、霧、土、火、万物との連なりを見つめる。 蔦監督は、数々のツァイ・ミンリャン作品に出演したカンションの起用について「リーさんが演じる人物は役名がなく、“私”という存在。あまりバックグラウンドを説明したくなかったですし、そもそも人間ではないのかもと感じてもらえる、ミステリアスな雰囲気を求めた」と理由を説明。共演者には、田中泯、ケイタケイら舞踏を専門にするキャストが名を連ね「リーさんも含めて、身体性が重要だと思った」と語った。 カンションは「監督が2度も台湾に来てくれて、いろいろな話をしてくださった。モノクロで、フィルム撮影するのも驚いた。パイロット映像も拝見し、ぜひこの芸術家に協力したいと思った」と蔦監督の熱意あるオファーを述懐。“共演”した牛は、ふくよと名付けられ、「私たちにとってはヒロイン。一緒に散歩したり、体をきれいに洗ってあげたりした」と絆を深めた。 ただ、一定期間、離れてしまうと「彼女は私のことを忘れてしまった」といい、「私が近づくと、ふくよに蹴られてしまうことも。彼女は人見知りなんです」と笑いを交えて、苦労を振り返った。 音楽を手がけたのは、2023年3月に亡くなった坂本龍一さん。ある映像コンクールで、坂本さんが審査員として、本作のパイロット版を目にしたといい、蔦監督は「人づてに『坂本さんが、タル・ベーラみたいだって気に入っていた』と聞いて、ダメ元でお願いしたら、まさか引き受けてくださった」と明かしていた。 第37回東京国際映画祭は、11月6日まで開催。