肥満ヘビースモーカーに、泣き止まない女...政治犯扱いのジャーナリストが経験した、ロシア刑務所の「衝撃的な現実」
不正な判決を下す裁判所
「とんでもないことが起きてるよな」 ガーリャはまた罵り言葉を発した。 「戦争には反対だよ。あいつらはだいたい頭がおかしくなった野郎ばかりだよ。それでぶち込まれるとはね。どうしちまったんだろう?子供は、そりゃあ神聖なもんだ。自分の子供のためだったら、どんな奴でもぶっ殺してやるよ」 この時、扉が開いた。女性看守が若い華奢な女性を房に押し込んだ。見た目は25歳前後だ。恐れおののく小鹿のように、女性は黙ってベッドに座り、問いかけにも答えないで静かに泣いていた。ショックを受けていることがわかった。慰めようとすると、彼女はもっと激しく泣き出した。 昼食の時間に近かった。 「オフシャンニコワ、服を着て、出ろ」扉の外から女性看守の投げやりな低い声が響いた。 「バスマン裁判所へ出頭だ」 裁判所の名前を聞くと、公正な判決へのあらゆる希望が煙のように吹き飛んだ。バスマン裁判所はユコスの元オーナー、ホドルコフスキーの裁判の時からロシアでは政治弾圧の象徴になっていた。政治的野心のためにホドルコフスキーは懲役9年の刑を宣告され、塀の向こう側に追いやられた。ユコス事件の後、ロシアでは「バスマン裁判」という言葉が生まれた。権力の注文通りに不正な判決を下す、「御用裁判」のことだ。 女性看守はもう一度わたしを鉄の檻に入れ、身体検査を始めた。書類の束の中に看守は偶然「殺された子供たちが夜ごとにあなたたちの夢にあらわれますように」と書かれた紙を見つけた。この紙をつかむと丸めてゴミ箱に投げ捨てた。 揺れる囚人護送車のなかで、わたしは、バラバラになったヴィンニツァの4歳の女の子リーザのことを思い出した。 『非公開での政治裁判...都合が悪いプーチンの「強硬すぎるやり方」と、女性ジャーナリストの「拳銃より強力な抵抗」』へ続く
マリーナ・オフシャンニコワ