伝統行事「牛の角突き」 女性ファン開拓に女子部長が考えた一手
1トン近い牛がぶつかり合う新潟県長岡市山古志の伝統行事「牛の角突き」。千秋楽があった3日、闘牛場を後にする観客に、五十嵐明子さん(46)は「ありがとうございました」と声をかけて見送った。 【写真】伝統と動物愛護、対話の出発点は?東大教授語る「牛の角突き」の変化 角突き女子部長。横には、部員らと考案した牛のマークのTシャツやバッグを販売するブース。女性客に角突きの面白さをPRし、SNSで発信してファンを開拓してきた。 きっかけは十数年前。長岡市の自宅から魚沼市の実家に帰る際、立ち寄った山古志で闘牛会の松井治二・前会長と出会い、「闘牛を見においで」と誘われたことだった。 翌年、県外の友達が来た時にふと思い出し、闘牛場を訪ねた。体の大きな牛が登場すると、迫力に魅せられ、最前列でかぶりついた。以来、勤務が不規則な介護職だが、取組のある日は前もって休日希望を出し、通うようになった。 2016年、鹿児島県・徳之島から来た牛を買った。赤毛と黒毛がしま模様になった「虎毛」が気に入り、甘えん坊な性格から「小豆丸(あずきまる)」と名付けた。「闘牛は怖いイメージをもたれるけれど、牛のかわいらしさや家族同然の牛にけがさせないように引き分けにする角突きの文化を知ってもらいたい」と創部した。 10人ほどで始まった部はいま、県外の約20人を含め70人ほどに増えた。「牛が世代や住む地域の違う人と人を結びつけてくれる」。今後はゆっくりと角突きの楽しさを話し合える喫茶スペースを会場に作るのが目標だ。 預けてある闘牛会の牛舎へ毎週のように通って世話をしてきた小豆丸は今月、この世を去った。人間の年齢で70歳ほどになる14歳。角突きの魅力を教えてくれた松井前会長は9年前に先立った。「お空で、松井さんがかわいがってくれる」。思いがけない早い別れに、目頭を押さえた。(白石和之)
朝日新聞社