日本人の多くが誤解している「インド」という国…「親日」だけでは済まない「本質」
印中間で顕在化する経済安全保障
インドの経済安全保障もまた、中国との間で分かりやすく顕在化しています。 現在三期目を迎えるナレンドラ・モディ政権ですが、2014年の第一期政権発足からしばらくは中国との関係は安定的でした。 しかし2020年に印中間の係争地であるガルワン渓谷に中国が進出したことに端を発して、両国軍の間で戦闘が発生しました。一連の戦闘によって、インド側の発表によればインド兵20名が死亡しました。 中国側は本件の世論的エスカレーションを避けるために被害状況の言明を避けましたが、死者数は若干名あったとされています。情報統制の盤石な中国側は核保有国同士の挑発スパイラルを忌避して、国防部、外交部またネット言論統制など様々なルートで冷静さを演出しました。
対中強硬策に転じるモディ政権
一方で、ナショナリズムの高揚が内政的にポジティブな側面を持つモディ政権は対中強硬策に転じ、過激さを増していきました。インド国民感情も刺激され反中感情が増長されていきました。同じ事件に対して、印中両国の対応が綺麗なコントラストを描いて真逆になっていました。 その後、本事件を受けて、インド政府はBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)らのメッセンジャーや検索サービス、バイトダンスのTikTokなどの国内使用を禁止にしました。すでにインド内でシェアを拡大していたシャオミーなどの中国資本スマホブランドなどへの規制も強化されました。 中国内で製造された製品をインドに輸入することの阻害にもつながり、モディ政権が従前から掲げていた「メイク・イン・インディア(インド内の生産製造インフラを向上させる総合的施策)」とも合致しました。しかし現実的には、シャオミーらはインド内生産を拡大するものの重要なハイテク部品は中国製造品の輸入に頼らざるを得ないと言われています。 これら一連のインド側のアクションは、中国側にどれだけのダメージを与えたかの計量問題は別にして、ガルワン渓谷での印中間衝突を受けたインド側のエコノミック・ステイトクラフト発動といえるでしょう。