正体不明な海の異常に一筋の光 登場人物たちが段々と繋がっていき、問題の糸口が見え始める<ザ・スウォーム>
木村拓哉ら世界各国の豪華出演者が集結したHuluオリジナル「THE SWARM/ザ・スウォーム」。“宇宙よりも謎が深い”と言われる深海を舞台に、世界の海で起きている不可解な現象を追うSFサスペンスだ。第5話ではようやく各地の研究者が繋がり、海洋災害の原因に仮説が建てられた。本記事では、考察を踏まえながら同話を振り返る。(以下、ネタバレを含みます) 【写真】迫る脅威に対し、必死の表情で恋人を呼び戻すチャーリー ■チャーリーがたどり着いた“原因”の仮説 海洋生物研究所の研究員・シャーロット・“チャーリー”ワグナー(レオニー・ベネシュ)は、沈没したジュノー号に乗っていた友人からのメッセージを凝視していた。それは亡き友の言葉を反芻するためではなく、映り込んだ謎の光と音から彼らが死に至った原因を突き止めるためだ。 メッセージ動画は沈没の直前に撮影されたもの。だがチャーリーは、船の窓から見える不規則な光の明滅とノイズのような音に覚えがあった。それは沈没後のジュノー号を撮影した際、映像に記録されていた光と音。ノイズと考えるには、あまりに似通いすぎている。 チャーリーは光の波長と音の周波数を調べることに。すると、2つの映像に映った光の波長と音の周波数が同じものであることがわかった。チャーリーは急いでカタリーナ・レーマン(バルバラ・スコヴァ)教授に連絡を取り、謎の音と光を伝えた。 だがカタリーナは「チャーリー、それは通信障害によるただのひずみだと話したはず」と言い、チャーリーの話を取り合ってくれない。しかし、チャーリーは諦めない。チャーリーにとって大事なのは、ここからだったからだ。 友人が乗っていた船を含む3隻が沈む数時間前、水温の急上昇が認められていた。気象衛星による海面温度を記録した写真をもとに説明を続けるチャーリー。水温の急上昇は、海底にあるはずのメタンハイドレートが大量に海面へ浮き上がってきた現象の説明にも繋がる。海底のメタンハイドレートが水温の急上昇で溶け、地層からメタンなどが高い圧力で吹き出す「暴墳」が船を沈めたのではないか…というのがチャーリーの仮説だった。 だがトロンヘイム大学のシグル・ヨハンソン(アレクサンダー・カリム)教授は、彼女の仮説を聞いて疑義を呈する。彼は同じく暴墳に巻き込まれたトヴァルソン号に乗船しており、「大きな船だったから助かった」という間一髪の状況を体感していた。だがその際は、掘削作業中に地層側の圧力が制御不能レベルまで高まったため起きた暴墳…と考えられていたのだ。しかもその事故は新種のワームが大繁殖したことで、海底が不安定化していたための現象。3隻の船を同時多発的に沈める原因としては説明しづらいのでは、と反論する。 だがチャーリーは、3隻の事故が起きた地点の近くに熱水噴出孔があることに着目。熱水噴出孔が開いたことで水温の急上昇が起きたと仮定するならば、一連の事件は繋がっているはずだとチャーリーは主張した。 深海探査機を使って調査をおこないたいと嘆願するチャーリーだったが、カタリーナは「いい加減にしなさい」と激しく叱りつける。熱水噴出孔は閉じているはずだし、もし活動していても水面まで高温の海水を届けることは不可能。そして高温を維持したまま船を沈めるほど膨大な海水を船のもとまで届ける力など、この世にないと切り捨てるのだった。 ■危機感を持った専門家が繋がっていく 若者の命を奪ってしまった責任を感じていたカタリーナの気持ちを汲み取りつつも、シグルはチャーリーの仮説を検証するべきだと考えていた。カタリーナの常識論は的を射ていたが、チャーリーの仮説も現状を説明するに足る論理を備えていたからだ。 そんなとき、シグルは同時多発的に起こっている海洋災害の関連性を議論するために国際海洋保護委員会がジュネーブで開催されるというニュースを目にする。多数の専門家と話をするため、シグルはミフネ財団のサトウに「彼らと話がしたい」と頼み込む。 シグルが追っていた「新種のワーム」「クラゲの大発生」といった問題のほかに、ロブスターやカニを媒介にした感染病が世を騒がせている。海に端を発するこれらの現象が偶然起こったとは思えず、何か関係があるはずだと考えたと訴えるシグル。その話を聞いたサトウは、クジラを専門とする学者のレオン・アナワク(ジョシュア・オジック)を紹介する。彼にとっても、海運業に影響を及ぼしているさまざまな現象の解決は急務ということだろう。 シグルはレオンと連絡を取ると、驚異的な速度で繁殖している新種の貝と人を襲ったシャチやクジラの脳に存在していた「謎の有機物質」について、データを送ってもらえることに。「未知の領域に足を踏み入れている気分だ」というシグルの言葉を聞いたレオンは、「不思議ですよね。あなたは欧州で、僕はカナダで――状況は違うが同じことを調べてる」と学者同士だからこそ伝わる奇妙な感覚を確かめあった。 その後レオンから送られてきたのは、彼らのチームがクジラに取り付けて撮影した映像データ。そこにはチャーリーが説明した謎の音に似た音と光が入っていた。恐ろしい共通点に、急ぎカタリーナらに連絡を取るシグル。いよいよ信ぴょう性を増してきたチャーリーの仮説を検証するため、彼女が暮らす基地へ「深海探査機」を含む物資供給のヘリが向かう。話を聞いたシグルは、チャーリーと話をするために「僕も乗せてくれないか」と頼んだ。 チャーリーと会えたシグルは偶然謎の光と音を発見したレオンについて説明しながら、彼女に「君はまず自分の仮説を検証するんだ。好きなだけ深海探査機を使え」と伝える。 各国の専門家たちが問題の共通点にたどり着き、合流して力を合わせ始めた。いまだ謎の多い展開に、希望の光が見えてきた形だ。 ■“海の恐ろしさ”を改めて思い知らされる 希望を抱くに至った第5話。だが、ラストシーンでは突如発生した津波が多くの人を押し流してしまうという悲劇が映し出される。被害者のなかには、シグルが愛していた女性・ティナの姿も。 ティナとシグルの人間関係はこれまでも何度か描かれていた。恐らくは一度破局を迎えた2人。それでも2人のやり取りには、わずかな未練を感じさせる言動が入り交じっていたのだ。 ティナが所属するホーヴスタッド・エネルギー社の不正を目の当たりにしたシグルは、ティナがもともと「新種生物がいようとも無理矢理開発を進めるつもりだった」と疑ってしまう。しかし実際に彼女は会社の裏切りを知らず、第5話では会社を辞めて街を離れることを決断することに。 最後の挨拶にシグルの家へ訪れたティナに、シグルは疑ったことを謝罪する。そして「君のいない人生なんて考えられない。いや、考えたくない」と伝えるのだが、ティナはシグルの言葉を背中で受け止めると、たっぷり時間をかけてから「さよなら、シグル」とだけ残して家をあとにするのだった。 しかしその後、いまのボーイフレンドに別れを告げるため海岸にある店を訪れたティナは津波の予兆を目の当たりにする。海鳥が一斉に飛び去り、潮が異常なほどに引いていく。やがて壁のように迫り来る津波を見てパニックになった人々は、悲鳴を上げながら避難する。 ティナのボーイフレンドはいち早く車に乗り込んで出発していたが、「待って!」と叫ぶ彼女を待たずにアクセルを踏んだ。ティナは絶望しながら自分の車を探してなんとか乗り込むが、津波はそのときすでに水飛沫が車の窓を濡らすほどの距離に。絶望の表情を浮かべてシグルにかけた電話は繋がらず、ティナは「シグル、私よ。私も言わせて。あなたなしの人生は考えられない」と最後の音声を残すのだった。 すれ違う大人の恋愛を描いたワンシーン。ただのパニックホラーではなく人間関係をしっかり入れることで、登場人物たちのキャラクターに深みが増す。ありふれた手段ではあるものの、いまだ海洋異常の正体も掴めないなかで次々に起こる悲劇は絶望感もひとしお。 第5話では問題を認識している学者同士が繋がり、力を合わせて進む体勢が整った。海で起きる数々の異変の正体を掴むまで、あと一歩のところまで来ているはずだ。 ◆文=ザテレビジョンドラマ部