雷門音助さん、柳家小はぜさん ごひいき願います!
デジタル時代だが、落語がブームです。講談・神田伯山や浪曲・玉川奈々福の活躍もあり演芸も元気がいい。チケット入手が困難な人気者も相当数います。この勢いに続けと、若手でも有望な芸人さんが多く登場してきました。彼らに注目しているひとり、落語・演芸を長く追い続ける演芸写真家・橘蓮二が、毎回オススメの「期待の新星たち」を撮り下ろし写真とともにご紹介いたします。 【全ての画像】雷門音助、柳家小はぜの写真ほか(全9枚)
「然り気無いインパクト」──雷門音助
ひと針、ひと針、感情を丁寧に縫い合わせてゆく繊細な高座は若手屈指の実力者である。聴き手の気持ちに添う滑らかな噺の運びと淀みない所作は心身共に隅々まで落語を馴染ませていることが感じられる。何を見聞きしても常にどこか落語に活かせないかと考え日々を生きていると言うほどの落語の虫だが、プロの落語家を志す以前は人前で何かを演じるとは夢にも思っていなかった。 関西の大学に在学中、落語研究会に在籍していたのも元々お笑い好き(観る方)だったことと部内の愉しい雰囲気に惹かれたからだった。落研の大会に出場することもなく他の部員がやっていなかった江戸落語を先輩から勧められるままに楽しみながら高座に上がる大学生活だった。卒業後は“キチンと社会の歯車になりたい”と地元の信用金庫に就職し充実した生活を送っていたが、ある日久方ぶりに聴いた落語が心の奥深くに染み込んでいた包まれるような幸福感を呼び起こした。改めて落語の心地好さを実感してからは、矢も盾も堪らず休日毎に都内の寄席に遠征し全身に落語を浴び続けた。生真面目で一途な性格は瞬く間に“やるならプロ”の気持ちへ一気に傾き、2011年10月、華麗な人形噺や芸の引き出しの多さに魅了された九代目 雷門助六師匠に入門した。前座名「音助」で翌年1月に楽屋入り、4年間の前座修業を終え2016年2月中席より二ツ目に昇進した。 強く押し込まない観客の反応を受け止める包容力と緩急織りまぜた明瞭な口跡の良さ、加えて古今亭志ん朝師匠が八代目 雷門助六師匠から習い復活させた「住吉踊り」のメンバーとして研鑽を積んできた身のこなしから生まれる緻密で柔らかみのある所作は以前より定評が高くさらに状況に即応できる優れた状況判断力をも兼ね備えている。“寄席はショーケース”と考え、例えばマクラをふる時は聴き手との気持ちの距離を詰め過ぎぬよう寄席では私的な話は避ける一方、勉強会など観客との関係性が近い空間では日常の出来事を話題にするといった落語表現の細かな工夫が随所に凝らされている。高座に於ける僅かな予兆を捉え“変えないように変える”微調整を怠らない優れた感性から創出された落語は温かい手触りがある。「何かひとつでもお客さまの琴線に触れられたら嬉しい」そして「誰かに響け」と願いながら高座に臨む。表現のインパクトは必ずしも強ければ伝わるとは限らない。気づけば好きになっていて、いつまでも心に残り続けるものは穏やかで然り気無い。雷門音助さんの落語がそうであるように。