元少年隊・錦織一清もジャニー喜多川を批判…それなのにNHK会長“欲望”優先の浅はかさ(元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)
「僕たちは犯罪者に育てられた子どもたちなんだよね。自分が川で溺れているときに助けてくれた人が、実は殺人犯だったらどうするかって話で」 【写真】“ケンちゃんシリーズ”宮脇康之さん「5回死にかけた」現在と「ジャニー喜多川さんの性加害の被害に…」の過去 これは週刊文春(10月24日号)の阿川佐和子の対談に登場した元少年隊の錦織一清(59)が、ジャニー喜多川について語った言葉である。錦織は、社長だったジャニー喜多川から受けた恩や教えは忘れられないと言いつつも、こうも言っている。 「僕らは色眼鏡で見られる覚悟が必要。そうやって社会から罰を科せられているんですよ。(中略)『あいつらもおかしいんじゃないの』って俺たちは言われ続けるしかないと思います。というか、言われ続けなきゃだめなんだよね。そう言われるようなことを社長はやってきたんだから」 東山紀之がジャニー喜多川の性加害について「鬼畜の所業」と言ったのと同じように、自分が性加害を受けたかどうかについて語らない点は同じだが、錦織の言葉でうなずけるのは、ジャニー喜多川の犯罪は重大だから、自分たちも社会から罰を受け続けるしかないというところである。 だが、この国のメディア、特にテレビはそんな基本の基さえも忘れてしまって、ミソギは済んだとばかりにテレ東に始まり民放各社、NHKまでが旧ジャニーズ事務所のタレントたちの起用を再開した。 10月16日、NHKの稲葉延雄会長は定例会見で、「被害者への補償と再発防止の取り組みに加え、(スマイル社とスタート社の)両社の経営の分離も着実に進んでいることが確認できた」(朝日新聞10月17日付)と述べたという。 しかし、補償で合意できたのは被害を申告した1000人のうちのまだ半数である。理由も告げられずに救済しないと切り捨てられた者も多数いるといわれている中で、NHK会長はなにを「確認」したのか。 週刊新潮(10月24日号)によれば、折り合いがつかず調停へと移行した被害者も4人いるという。NHK関係者は、「調停がこれ以上揉めて、訴訟にまで発展したら、性加害問題に再び注目の集まる事態が予想される。そうなれば、旧ジャニーズタレントを起用したテレビ局にも騒動が飛び火しかねないことを恐れているのです」と話している。 創業者の姪・藤島ジュリー景子が関連会社からも退いたというが、新会社の株主構成は公表していない。彼女が株を持ち続けていれば利益を得られるから、「表札が変わっただけで、実態は何も変わっていない」(青山学院大・八田進二名誉教授=朝日新聞)のではないのか。とにかく、旧ジャニーズ事務所と同じで、「SMILE-UP.」には隠し事が多すぎる。 それでもNHKが旧ジャニタレの起用再開を明言したのは、紅白歌合戦の出場者を決めるギリギリの時期だったからだろう。過去最低だった昨年の雪辱を果たしたいというNHK上層部の浅はかな“欲望”が、事実を正しく見る目を狂わせたのである。 ジャニー喜多川の犯罪のすべてを洗い出し、さらなる被害者を救済し、ジャニーに媚びを売ってアイドルにのし上がった連中に真実を語らせるまで、この男が犯した罪を忘れてはいけない。 ■Nスペを見習え! しかし、上層部とは考えを異にし、現場で骨太のドキュメンタリーを地道につくっている人間たちもいる。10月20日の夜に放送されたNHKスペシャル「ジャニー喜多川 “アイドル帝国”の実像」がそれである。メディアも帝国づくりに加担したと鋭く迫っていた。 私もインタビューされたが、彼らのジャーナリストとしての「覚悟」がひしひしと伝わってきた。NHKが丸ごと腐りかけているのではない。 (文中敬称略) (元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)