「女の子のスポーツ離れ」深刻…女性アスリートらが考える解決法は
「スポーツ参加」男女で大きな格差
女の子とスポーツを取り巻く課題の解決を目指すイベント「女の子のためにスポーツを変えるウィーク -COACH THE DREAM-」がこのほど都内で開催され、その中核イベントとして、女性アスリートや指導者らが「女の子のスポーツ離れ」などについて議論する「東京サミット」が、虎ノ門ヒルズで開かれました。ナイキジャパングループ(東京)と、スポーツを通じた社会貢献活動に取り組む「ローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団」(本部・ロンドン)の主催で、2部構成のパネルディスカッション形式で活発な議論が交わされました。 スポーツ庁が実施した「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」(2023年度)によると、1週間のすべての運動時間が60分未満の中学生の割合は、男子が11.3%なのに対し、女子は25.1%に上っています。男女間で2倍以上の開きがあり、スポーツの分野での「ジェンダー格差」が深刻なことがうかがえます。こうした問題を念頭に、「東京サミット」では、女の子のスポーツ参加促進の方策を探りました。 第1部では初めに、女の子を対象としたスポーツ参加促進支援プログラム「プレー・アカデミー with 大坂なおみ」に参加している中山杏珠さん(14)がスピーチを行いました。「プレー・アカデミー」は、プロテニスプレーヤーの大坂なおみさんとナイキ、ローレウス財団が合同で始めたプログラムで、女の子がスポーツに取り組む機会を創出するため、各地のスポーツ関連団体への助成や、ジェンダー平等に関する指導者向け研修などを実施しています。 1歳の時に目の病気が見つかり、10歳の時に失明したという中山さんは現在、障害のある女性を対象としたクライミングスクールに参加しながら、柔道にも取り組んでおり、「私にとってスポーツとは、人とつながるきっかけであり、自分の世界を変えてくれたもの。クライミングと柔道に出会い、あきらめないで何事にも前向きにチャレンジできるようになりました。これからもスポーツを楽しむことで、新しい自分と出会い、もっと成長していきたい。そして、それが誰かのスポーツを始めるきっかけになったらうれしい」と、スポーツと出会えた喜びを語りました。 続いて、読売ジャイアンツ女子チームで活躍する田中美羽さん、前バスケットボール女子日本代表ヘッドコーチの恩塚亨さん、中京大学教授の來田享子さんらが登壇。女の子のスポーツを取り巻く課題やその解決策について意見を出し合いました。 スポーツとジェンダー領域が専門の來田さんは、女の子のスポーツ参加の壁となる問題として、「人権の尊重・保護がされていない」「女性のロールモデルが少ない」「手の届くところにスポーツをする環境がない」「女性特有の体と心の変化」を挙げました。そして、これらのどの問題も、「女の子はこうである」と決めつける“ジェンダー規範”が関係していると指摘しました。 現在、桃山学院教育大学で学びながら、学生コーチとして中学生にバレーボールを指導している世古汐音さんは、中学時代の尊敬できる体育教師との出会いがきっかけで指導者を目指すようになったことや、バレーボールをやめたいと思った時、チームメートや先生に助けられたことなど実体験を紹介したうえで、「女性のロールモデルが身近にいたから、今もスポーツを続けることができた」と語り、女の子のスポーツ参加を促すにはロールモデルの存在が重要であることを強調しました。 田中さんは、少年野球をしていた兄から、「ピンクのユニホームを作ってあげるから一緒に(野球を)やってみない?」と誘われたのが野球を始めたきっかけだったと明かし、女の子も気軽にスポーツを始められるよう、参加へのハードルを下げることの大切さを訴えました。 パリ五輪で女子日本代表のヘッドコーチを務めた恩塚さんは、「コーチは選手に『言われたことをやって』と言い、選手は仲間に『言われたことをやろうよ』と呼びかけるのが、女子バスケットボールのあるあるだ」と明かしたうえで、「しかし、それは“自分らしさ”とかけ離れているので変えていきたい。選手たちがやらなきゃいけないことをやりたくなるように、コーチはどう導いていけるか。例えば、『ボールを追いかけないといけない』ではなく、『そのボールを取れたらかっこいいよね』というように、その選手のなりたい理想像へ導いていけるようになれば、選手たちは自分らしさを持って戦っていけると思う」と持論を展開しました。 さらに、來田さんは、女の子のスポーツ離れを解決するために、「まずは女の子の“大好き”や“大事”を理解すること。例えば、参加しやすいプログラムを自分たちで考えるのもいい。もう一つはスポーツを変えること。みんなが国際ルールでスポーツをする必要はなく、楽しめるようなルールを一緒に作るのもいい。女の子たちの『自分らしさ』をはぐくむことを目指して、サポートを盛り上げていきたい」と力を込めていました。