<日本版NSC>課題は何?/情報一元化は実現するのか
日本版NSC(国家安全保障会議)は省庁間の縦割り行政を打破し、テロや武力攻撃などの有事に情報を集約し、迅速に対処方針を決定できるようにすることを目指しています。それらを実現するために、どんな課題があるのでしょうか。
米NSCのスタッフは200人、日本版は20人?
まず体制面ですが、政府が手本にしようとしているアメリカのホワイトハウス(大統領府)のNSCと比較してみましょう。アメリカのNSCの場合、メンバーは正副大統領、国防長官、国務長官、他のメンバーは政権ごとに変わるといわれています。70年近い歴史を持ち、スタッフは約200人にのぼります。 一方、日本版NSCは、首相、外相、防衛相、官房長官の4閣僚が常設メンバーとなり、NSC担当の首相補佐官を新設すると発表されています。内閣官房に事務局を設け、10~20名程度の専門スタッフを置くとしていますが、アメリカと比較するとやや心もとない規模といえます。 そもそもアメリカの大統領の場合は最低4年の任期が保障されますが、日本の首相の場合は近年の例を見てもわかるように、いきなり辞職ということも珍しくありません。そのため、せっかく日本版NSCを作っても、政権が何度も変わるうちに、その機構を維持・継続させているのは結局官僚たちだった、ということにもなりかねません。 緊急の事態に迅速に対応するため、防衛省や外務省などに分散する権限や情報をまとめ、「縦割り行政」の弊害をなくすことには意味があります。実際、今年1月30日に起きた中国海軍艦艇によるレーダー照射では、防衛省の発表直前まで首相や外務省が事実関係を把握していなかったといわれています。
4者会合と安保会議が併存
ただ、情報一元化の実現を疑問視する声もあります。「4者会合と安保会議が併存することで情報の流れが悪くなることにならないのか。それによって判断が遅れたり、情報が錯綜したりして混乱することはないのか」と、信濃毎日新聞の社説は問います(5/12)。 ここでいう「4者会合」とは、首相・官房長官・外相・防衛相で構成する月1~2回の定期会合のことで、日本版NSCの中で安全保障問題の重要事項を論議する場です。「安保会議」とは、1986年以来続いている現行の安全保障会議のことで、首相のほか9人の大臣により構成され、主に国防や、武力攻撃などの緊急重要問題について審議します。
国民の知る権利はどうなる
ほかにも懸念はあります。安倍政権は、日本版NSCの創設と並行し、外交や安全保障、治安などに関する秘密情報を保全するため、罰則規定を定める「特定秘密保全法案」の検討を進めています。これについては、「国民の知る権利が阻害される」として報道機関や弁護士会などが反対しています(時事ドットコム3/29)。 日本版NSCを十分に機能させるには、人材の確保も重要です。朝日新聞の社説は、「海外での情報収集には、言葉を操り、現地に溶け込む専門家の配置が必要だ。NSCで分析するなら、その能力に秀でているうえ、省益にとらわれない人材をそろえる方法を工夫しなければならない」(2/17)と論じています。