日本独特の物語形態「癒し系」が世界で人気を博すワケ─北米で癒し系の先駆けとなった「有名漫画」とは?
北米で「癒し系」を広めた作品
北米における「癒し系」の初期の大きな成功のひとつは、高屋奈月の『フルーツバスケット』だった。この作品は1998年に連載がスタートし、世界中で3000万部以上を売り上げており、アニメや舞台など、さまざまなメディアに翻案されている。 『フルーツバスケット』は孤児となった女子高生、本田透の物語だ。彼女と居候先である草摩家の関係、そして世代間のトラウマや家族間の争いなど、草摩家を社会から孤立させる出来事を描いている。 創作講師で作家のエリカ・アリベットはこの作品について、「登場人物も読者と同じように、トラウマのなかで苦しみ、悲しみ、そして癒すよう促されている」と述べる。最終的には、孤独、喪失、暴力、憂鬱などを経験した人が深く共感でき、痛みを癒してくれる作品となった。 一部の研究者や批評家は、日本文化が社会やテクノロジーの近代化に関連する、さまざまな危機やストレス要因を乗り越えようとするなかで、癒し系ジャンルが普及したのは自然なことだと考えている。大きな文化的ストレスがある時代には、人々が消費するメディアを通じて、文化的癒しが求められるのだ。
「癒し系」と「医学」の組み合わせ
癒し系物語という概念の根底には、文化や物語が人々に癒しを与える能力についての、より根本的な問いがある。 これらの問いは、「グラフィック・メディスン」や「ナラティブ・ベースド・メディスン」という学術分野で実践されている考え方と密接に関係している。 「グラフィック・メディスン」とは、2007年に英国のコミックアーティストであり医師でもあるイアン・ウィリアムズが提唱した概念で、漫画表現がどのように医療の領域を扱うことができるかを包括的に探る試みだ。 また、「ナラティブ・ベースド・メディスン(NBM)」とは、患者が自身の病をどのように捉えているかを把握し、それに基づいて全人的(身体的・心理的・社会的)におこなう医療のことで、物語が患者のケアと医療従事者の充実感に大きな影響を及ぼすと考える医療従事者たちによって実践されている。 癒し系物語の人気や、物語と治癒・治療の関係に対する幅広い関心をみるに、多くの分野やコミュニティでは、もう対立は充分だと考えられているようだ。
J. Andrew Deman