今年も「M-1グランプリ」の季節がやってきた! 2024年の決勝進出9組を総ざらい!【後編】トム・ブラウン・バッテリィズ・ママタルト・ヤーレンズ・令和ロマン
2024年の決勝進出9組をわかりやすく解説する。その後編。 【写真の記事を読む】2024年の決勝進出9組をわかりやすく解説する。その後編。
トム・ブラウン 布川ひろき/みちお 所属:ケイダッシュステージ 結成:2009年 2018年の決勝にて、「合体!」ネタで大いにインパクトを残す。昨年、4年ぶりに準決勝に進出。敗者復活戦で「スナックでマナーの悪い客に注意しようとした結果、相手を殺して最終的に自分も死ぬ」という一連の流れをリフレインし続ける漫才を披露する。首を折り、弓矢を放ち、放った矢が自分にも刺さり、死体がリズムを刻み……と、こう書いていてテキストの無力さを感じるネタは観るものを仰天させた。前述の通りエバースに敗れ敗者復活は叶わなかったが、YouTubeの『M‐1』公式チャンネルで配信された動画は300万回再生を突破。ファイナリストたちを押しのけ、昨年のネタ動画再生回数第4位になった。 準々決勝敗退が続いた2020~2022年は、バラエティで活躍している事実が逆風となって予選で苦戦した。その中で、自分たち自身もネタの作り方が以前と変わってしまっていることに気づく。そこで「『こうやったらウケる』とかを捨てないとダメだ」と思考をリセット。あらためて自分たちの漫才と向き合った結果、「『やっぱ捨て身でやらなきゃ』ってことで、人を殺すネタを作った」(2024年3月20日配信 YouTube「ニューヨーク Official Channel」より)。それが昨年の敗者復活での爆発につながっている。「俺らの漫才って、命賭けないと面白くない」という彼らにしか到達し得ない着地点だ。 ラストイヤーの今年、6年ぶりに決勝に舞い戻る。命の炎を燃やし尽くす準備は整った。 バッテリィズ エース/寺家 所属:吉本興業(大阪) 結成:2017年 『M‐1』では昨年初めて敗者復活戦に駒を進め、今年は関西の若手が競う『ytv漫才新人賞』(読売テレビ)でファイナリストに。賞レースの決勝を初めて経験し、年末まで勢いを落とさずこの1年を駆け抜けた。 最大の持ち味は、ウルフカットのエースが「名前を書けば受かる高校に落ちた」など逸話に事欠かない“アホ”であるところだ。基本的なスタイルは、寺家が説明する事柄に対し、エースがアホならではの言い分で応えるしゃべくり漫才。その中では時折、世間で常識とされていることに対して芯を食った文句が飛び出してくる。子どもが純真さゆえに物事の本質を見抜く瞬間と似て、感心と笑いを誘う。一方で「全部聞き取れたのになぁ!」など己の理解の追いつかなさを嘆く場面もあり、この緩急が爆発力をもたらしている。 別々のコンビを組んでいたが、同じ草野球チーム所属だったことをきっかけに結成。コンビ名は寺家がキャッチャー、エースがピッチャーだったことに由来している。ストレート勝負を好みそうなイメージに反してエースは7種の変化球を操る技巧派らしい。 決勝進出者記者会見ではMCを務めたマヂカルラブリーとのやりとりの途中で話を見失い、「本番気をつけろよ、今田さんの話聞いてないとかないように」と注意されていた。十全にキャラクターが伝われば、来年以降全国区でのバラエティ仕事が増えるはず。試金石となる決勝の平場では頑張って集中力を維持してほしい。 ママタルト 檜原洋平/大鶴肥満 所属:サンミュージックプロダクション 結成年:2016年 ライブシーンで評価が高まり始めた数年前、彼らの漫才のツカミは「体重160キロと79キロの凸凹コンビです」「もっと僕が、細ければ……!」だった。その後、『ツギクル芸人』「Laughter Nightチャンピオン大会」など関東の主要な賞レースで決勝に残り、『M‐1』は2022年、2023年と準決勝まで到達。戦績と共に大鶴肥満の体重も上昇を続け、現在は190kgに到達した。唯一無二の体格を活かしきったボケに、顔が真っ赤になるほどの大声かつ長尺でツッコむ漫才コントはパワーと明るさに満ち溢れている。 真空ジェシカ川北が濫用する「まーごめ」はもともと大鶴肥満の持ちギャグである。肥満の顔が俳優の大鶴義丹にやや似ていることから、かつて大鶴義丹が不倫謝罪会見で当時の妻マルシアに向かって発した「まーちゃん、ごめんね」をフレーズ化。それが川北を中心に広がっていった。2022年の敗者復活戦初出場時、筆者は本メディアで「決勝のスタジオで真空ジェシカとダブルまーごめしているところが観たい」と書いたが、2年越しに叶った格好になる。 檜原が大鶴肥満を誘う形でコンビを結成しており、その際の口説き文句は「俺は大鶴肥満を王にしたい」だった。はたして2人は今年、王になれるのか。また、例年の『M‐1』決勝では芸人がセット裏からせり上がってくる登場シーンが名物となっているが、ママタルトの決勝進出が決まるやいなや、芸人とお笑いファンの間ではせり上がり装置の耐荷重が心配の的に。当日はこの場面にも注目したい。 ヤーレンズ 楢原真樹/出井隼之介 所属:ケイダッシュステージ 結成年:2011年 東京ライブシーンで実力者と目されながらも、『M‐1』ではなかなか結果が出せずに苦しんできた。昨年とうとう決勝に勝ち上がるや、とんでもない量のボケが詰め込まれた見事な漫才コントで令和ロマンと票を分け合い、いきなり準優勝という結果を残す。今年1年は露出量が大幅に増加し、2024ブレイクタレントランキング(関東)で9位にランクインした(ニホンモニター調べ)。ラジオのレギュラーも3本増え、ネクスト・ラジオスターの呼び声が高まっている。 ただしブレイクの代償として、昨年までは年間300本出演してきたライブの本数が減少。ネタを磨く機会が減り、11月時点で「今(ライブ出演の予定をスケジュールに)ぶちこんでいってるけど、はたして間に合うのか」(2024年11月13日配信 Podcast『こたけ正義感の聞けば無罪』より)と心配していたが、しっかり間に合わせて2年連続ファイナリストと相成った。目指すは昨年よりも高順位、つまり優勝のみだ。 トム・ブラウンとは同じケイダッシュステージ所属。もともと大阪で活動していたヤーレンズが吉本興業を辞めて上京するにあたり、以前に賞レース予選で観て印象に残っていたトム・ブラウンがいる事務所を選んだという経緯がある。以来、互いにアドバイスをし合って切磋琢磨してきた仲だ。ファイナリスト発表後には2組で肩を抱き合って称え合う姿が見られた。昨年はツーマンライブを重ねてきた令和ロマンとの絆に焦点が当てられたが、今年はこちらの関係性もきっとドラマを生むだろう。 令和ロマン 髙比良くるま/松井ケムリ 所属:吉本興業(東京) 結成年:2018年 NON STYLE石田は、昨年の令和ロマンの勝因のひとつとして「漫才を『おもちゃにしている』感」を挙げた(マガジンハウス『答え合わせ』より)。その言葉に倣えば、『M‐1』という場を誰よりも遊び尽くさんとしているのも彼らだろう。『M‐1グランプリ2023』放送終了直前、コメントを求められたくるまは「来年も出ます!」と宣言した。 くるまにとっての至上命題は『M‐1』を盛り上げること。その観点からは、中川家以来22年ぶりとなるトップバッターで自分たちが優勝するという結果は不本意なものだった。今秋刊行の自著『漫才過剰考察』(辰巳出版)では「達成感より不満が勝つ」と記し、点数のインフレが起きなかった原因を分析している。 だからこそ、今年は2連覇を目論むヒールとして振る舞うことが最善手だと考えたのだろう。夏には『ABCお笑いグランプリ』(ABC)に挑戦し、『M‐1』で優勝したのに若手の登竜門的大会に出てくる自分たちを「害悪」と称した。このフレーズが浸透し、若手芸人界で令和ロマンを仮想敵と見做すノリが定着する。トリ前出番を務めた『M‐1』準決勝、サンローランのブラックスーツに身を包み「……終わらせましょう」の一言から始める姿は、1年にわたるヒールムーブが結実した場面だった。 優勝経験者が再び決勝に出場した前例は過去に3組存在する。だが誰も2度目の栄冠は手にできてない。前人未到の2連覇が実現してしまうのか。そして昨年は賞金を全部くるまにあげてしまったケムリは、今年こそ賞金を手にできるのか。「来年は出るつもりない」(2024年11月6日掲載「日刊サイゾー」より)らしいので、最後になるのであろう彼らの全力で遊ぶ姿を見届けたい。
文・斎藤 岬、編集・高杉賢太郎(GQ) ©M-1グランプリ事務局
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