北朝鮮軍ナンバー2の玄永哲が銃殺処刑か? 罪状はクーデタ未遂?
韓国の国家情報院は13日、北朝鮮の玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)人民武力長が、処刑された可能性があると発表した。張成沢粛清から1年半、北朝鮮でいま何が起こっているのか。朝鮮半島問題が専門の早稲田大学国際教養学部・重村智計教授に話を聞いた。(河野嘉誠)
──玄永哲は、どのような人物だったのか。 総政治局長に次ぐ軍のナンバーツーである人民武力長として、金正恩の側近を務めていた。一昨年末に処刑された張成沢に近かったとの情報もある。 ──韓国の国家情報院は、玄永哲の罪状を不満表出か、反逆罪のいずれかだと分析している。 居眠りなどの不敬罪であれば、すべての職を解かれ、収容所に送られるのが関の山だ。玄永哲が銃殺により処刑されたのが確かであれば、罪状はクーデタ未遂しかない。軍内部のクーデタ計画が秘密警察の調査より明らかになったのであれば、軍トップの黄 炳瑞(ファン・ビョンソ)総政治局長も、何らかの責任を追及されるだろう。 ──金正恩の訪露中止との関連は。 独裁者が他国へ訪問する時に最も恐れるのが、指導者の不在に乗じたクーデタだ。金正恩の訪露に向け、秘密警察によって何ヶ月にも渡る内部調査が行われたはずだ。調査の過程で浮上した「危険分子」が、玄永哲だったと見られる。北朝鮮が、直前まで金正恩の訪露中止を発表しなかったのは、国内の玄永哲派を油断させるためだったと考えられる。 ──玄永哲は、本気でクーデタを起こそうとしてたのか。 経済状況の悪化により、北朝鮮の下級将校には「食えない」との不満を漏らす者も少なくない。そうした不満をすくい上げるかたちで、玄永哲系列がクーデタを計画したというシナリオは、十分考えられる。ただ、金正恩により、軍を引き締めるためのスケープゴートとして利用された可能性も否定はできない。 ──処刑は、裁判などの手続きを経ずに実施されたと見られ、金正恩第一書記による「暴圧政治」がエスカーレートしているとの指摘も出ている。 軍人の処刑は、政治家の場合と異なり、軍事法廷など内部で裁かれる場合もある。金正恩が手続きを無視してまで、処刑に踏み切ったかは、現時点では断定できない。 ──幹部の中でも金正恩の「暴政政治」への不満が高まっているという。 幹部の間では広がっているのは、不満というより、自分がいつ処刑されるかわからないという不安だろう。一方の金正恩も、いつクーデタに見舞われるか分からないという恐怖観念に取り憑かれており、「暴政政治」がエスカレートしている。 ──北朝鮮は、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の水中発射実験をするなど、強硬姿勢を強めている。 軍の士気を高めるためで、見せかけの示威行為にすぎない。技術的に未熟なため、日本をはじめとする近隣諸国にとっては、大した軍事的脅威ではない。 ──金正恩が就任してからの3年間で、すでに70名以上が処刑されていると言われる。 金正恩は張成沢を粛清の後、張に近かった人物の一掃に踏み切っている。忠誠派と張派のせめぎ合いは、水面下でまだ続いている。北京の北朝鮮大使館では、全職員の3分の1が身の危険を感じ、中国や米国に亡命したという。権力基盤が脆弱な金正恩は、ただでさえ恐怖政治に頼らざるを得ない。処刑者の数は今後も増え続けるだろう。