船と自転車で長崎・大村湾沿岸を満喫 「サイクルージング」専用船就航
自転車を載せた船で海上を移動し、上陸地でサイクリングを楽しむ新しい形の観光「サイクルージング」が長崎県の大村湾で始まり、話題を呼んでいる。春の陽気に誘われ、桟橋から始まるローカルな旅に参加してみた。 大村公園内の玖島城跡にある桜を眺めながら走る参加者 「ながさき大村湾サイクルージング」を手がけるのは、大村湾で定期船を運航する安田産業汽船(長崎市)。長崎県、県観光連盟と協力し、船と自転車の双方で沿岸市町の魅力を体感できる観光商品として3月に開始した。専用船が時津港(長崎県時津町)を発着点に、長崎市琴海▽大村市▽長与町-の順で巡る。参加者は各地で乗降が可能。上陸後は約3時間、パンフレットに掲載されたモデルコースなどを自転車で自由に周遊できる。 好天に恵まれた3月30日朝、時津港でレンタル用の電動自転車を整備していた同社の安田舟平社長(33)が出迎えてくれた。「安全な旅行を祈りながら点検しています」。自転車は11台あり、この日はフル稼働。今後は台数を増やす予定という。自転車の持ち込みも可能だが、今回はレンタルした。 午前10時の始発船に自転車を押して乗り込んだ。四方を陸地に囲まれた大村湾の総面積は、約320平方キロメートル。船は水しぶきを上げながら時速40キロで湾を横断、まさにクルージングだ。約30分で大村市の長崎空港そばに到着。湾内から空港を望む貴重な体験に、船内の人たちは飛行機の写真を撮ったり、離着陸の様子を眺めたりして楽しんだ。
「寺島」と呼ばれる小島へ
大村市のボートレース場そばの桟橋から上陸し、いよいよ自転車旅の始まりだ。パンフレットにも載っている「寺島」と呼ばれる小島を目指す。島全体が雑木林に包まれ、二つの神社が祭られているという。10分ほど走ると、島につながる幅約1メートルの道が現れた。両側を海に挟まれ、柵はない。ハラハラしながら約20メートルを渡りきり、厳かな気持ちで一休みした。 続いて桜の名所・大村公園の花見客を横目に桜並木を快走。大村護国神社の桜は見頃で、思わず自転車を降りて写真撮影した。花見客は少なく、ゆっくりと巡れる穴場を見つけて得した気分になった。 昼食で立ち寄った日本料理店では、サイクルージングの旅行者と伝えると茶わん蒸しや食後のアイスクリームのサービスがあった。店主の大石幸義さん(76)は「おいしい食事で自転車旅を応援したい」と張り切っていた。地域の人々との交流も旅の醍醐味(だいごみ)だ。 午後2時前に桟橋に戻り、船を待つ。長崎市の田川秋雄さん(73)は「いつもは車で大村市に来ていたけど、自転車で街中を回ると知らないことだらけ」と満足した様子。家族5人で参加した長崎市の中尾正侑さん(12)は「きれいな景色を見て楽しかった。自転車もうまくなった気がする」と喜んだ。