アメリカ軍は弱体化している...世界トップに躍り出た「中国海軍の軍事力」
日本がアメリカと同盟関係を築いてきた最大の理由は、「世界最強」の軍事力にある。ところがいま、この前提が土台から崩れ始めている。アメリカで海軍の調査・分析を行い、戦略コンサルタントを務める著者が、中国軍の軍事力増強と知られざるアメリカ軍の「弱体化」をレポート。 ※本稿は、北村淳著『米軍最強という幻想』(PHP研究所)を一部抜粋・編集したものです。
戦力レベルが「弱体」に転落
アメリカ政府の国防政策決定過程に大いに影響を与えている保守系シンクタンクであるヘリテージ財団(Heritage Foundation)は、毎年多数の専門家を動員して国際軍事環境と、それに対してアメリカ軍がどの程度の戦力レベルを維持している状況なのか、に関する報告書を作成し、公刊している。 『Index of U.S.Military Strength』(以下、ヘリテージ報告書)というこの報告書がアメリカ軍の現時点における能力を「正確に評価している」とはいいきれないのは、一シンクタンクの分析評価である以上、当然であろう。 ただし、米軍の現状に関して様々な観点から厳しいチェックを日々実施している連邦会計監査院や、連邦議会調査局が公刊している多数の米軍関係報告書などと突き合わせると、ヘリテージ報告書の評価はかなり的を射た内容であると頷ける。そのため、米軍自身としてもこの報告書を尊重しているようである。 このヘリテージ報告書によると、2015年以来アメリカ軍の戦力レベルは全体として「必要最低限レベルを保っている」という評価が続いていた。 しかしながら「必要最低限」という評価は「仮想敵国と何とか戦いを交えることが可能である」という意味であるため、想定されているアメリカにとっての軍事的脅威を打ち払うだけの「強力」あるいは「極めて強力」なレベルには達していない、ということを意味している。 もっとも、2015年から2021年の7年間では、空軍の戦力レベルが2015年に「強力」と評価されたのみで、各軍種にしろ全体にしろ、その1回しか「強力」はなかった。逆に陸軍は2016年から2018年にかけて、海兵隊は2018年と2019年に、それぞれ「弱体」と評価されていた。 この「弱体」の原因は、陸軍と海兵隊はそれまで長年にわたってイラクやアフガニスタンなどでテロリスト集団との近接地上戦を中心として戦ってきたため、トランプ政権によって新たにアメリカの主敵とされた中国やロシアとの本格的地上戦や、島嶼部ならびに海岸地帯での戦闘を想定すると「弱体」と評価されたのであった。