アノニマスの「KKK支持者リスト」公表をめぐる大義と異論
特別な意味を持つ「11月5日」
アノニマスがKKK支持者リストの公表を11月5日に設定したのには理由があります。カトリック教徒で反英王室派の活動家であったガイ・フォークスが貴族のロバート・ケイツビーらと共謀し、英議会の地下に大量の火薬を仕掛けて当時の国王であったジェームズ1世らを爆殺しようとしたのが1605年11月5日でした。英国の歴史そのものを変えてしまう可能性もあった国王らの暗殺計画は実行直前に発覚し、逮捕されたフォークスらは拷問の末に皆処刑されます。絞首刑を宣告されていたフォークスは王室への最後の抵抗として、処刑台から自ら飛び降りたという伝説も残っています。 フォークスは80年代にイギリスの漫画家によって『Vフォー・ヴェンデッタ』という作品で取り上げられます。2006年にはナタリー・ポートマン主演で映画化もされたこの作品は、終始フォークスの仮面をかぶった主人公のVという名前のアナーキストが全体主義国家となったイギリスの政権転覆を試みます。映画版のラストシーンではフォークスの仮面をかぶった数万人のロンドン市民の前で、ウェストミンスター宮殿が爆破されるのですが、この頃からフォークスのマスクが反政府・反権力の象徴として欧米の若者を中心に受け入れられるようになりました。「匿名」を意味するアノニマスのメンバーもフォークスのマスクを着用し、最近では反政府デモなどでもフォークスの仮面をかぶる人が少なくありません。
ネット上の「自警団的活動」に議論も
KKKの支持者リスト公表にはアメリカ国内で賛否両論あります。アノニマスに代表されるハクティビストが、大義名分があるとはいえ、他人の個人情報を公表することは許されるのかという問いにははっきりとした答えは出ていない状態です。11月5日の支持者リスト公表前に、アノニマスのメンバーがフライングとなる形で、支持者リストの一部を公表しましたが、その中には政界関係者の名前もありました。真偽性が問われる中、アノニマスは11月5日に公表したリストの中で、先に出された政界関係者らの個人情報を削除しています。 加えて、弱体化するKKKの支持者リストを公表したところで、アメリカの抱える人種問題を根本的に解決する糸口にはならないだろうという冷めた意見もあります。前述の南部貧困法律センターの調査によると、全米には小規模なものも含めると約1600のヘイトグループが存在し、その中には現在でも5万人近くのメンバーがいるとされるクリスチャン・アイデンティティといった組織も含まれています。 (ジャーナリスト・仲野博文)