朝ドラを支える「チャーミングな50歳俳優」、仏頂面なのにずっと魅力的なワケ
不変の顔スタイルを洗練
ぎこちないんだけれど、台詞としてつぶだつ。ほとんど無表情に近い仏頂面が、実に複雑で豊かな感情をぐるぐる醸す。ほんといいんだよなぁ、北村有起哉の顔って。 映画俳優としての初期出演作『のど自慢』(1999年)で、ちょい役高校生を演じていた坊主頭の頃から、まるで変わってない。いつ、どこでも、不変の顔スタイルを洗練させてきた。 表情ばかりが演技の華ではないことも教えてくれる。顔そのものが、画面の基礎になるみたいな。『おむすび』を見るということは、北村有起哉のこの顔を毎朝楽しみにすることとイコールではないか。
激似でキャラ立ちする名場面
「おむすび、恋をする」と題された第7週で、結は鬼怒川のカッパ、あるいは福西のヨン様こと、他校の球児・四ツ木翔也(佐野勇斗)に恋をする。甲子園出場を目指す翔也のため、書道とギャル活動に加えて弁当作りに励む。 するとやっぱり聖人が心配し始める。弁当を渡す相手が恋人なのかどうかと、内心ぐるぐるスイッチがオンになる。第31回、聖人による面白場面が描写される。 台所にいる結に対して聖人は居間の扇風機を背にスイカを食べている。弁当が渡されるのが彼氏か気になる聖人が、口をはさもうとして、妻・米田愛子(麻生久美子)にとめられる。ぎこちない動きで後ずさるとき、なんともまが抜けた調子で扇風機に尻をぶつける。 その顔と所在ない動作が、『古畑任三郎シリーズ』(フジテレビ、1994年)の今泉慎太郎(西村雅彦)と激似でキャラ立ちする名場面だ。
神戸編でも北村有起哉尽くし
第8週第36回から舞台は、糸島から神戸に移る。聖人が床屋を営んでいたこの神戸編でもひたすら北村有起哉尽くしで、本作を楽しめる。床屋の上階に引っ越してきた場面でも、糸島と変わりなく、いや仏頂面がどんどん豊かになっている。 ドラマ展開とともに、仏頂面の表情に微細な変化をつける北村有起哉レパートリー。存在すべてが豊かな俳優だ。商店街を盛り上げたいと奮起する聖人の名場面が、さらっと置かれてしまうのもさすがとしか。 米田一家が糸島に移り住むときにわだかまりを残してきた渡辺孝雄(緒方直人)の靴店前を通りがかる第37回の夜の場面。カメラは暗い店内に置かれている。ドアのガラス枠に縁取られた聖人が写される。枠にちょうど立ちどまり、おさまるタイミング、店内をのぞく演技といい、ほんと映画っぽい間合いなんだよなぁ。 <文/加賀谷健> 【加賀谷健】 音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
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