呼び覚まされた大瀬良大地の闘争本能「力を込めて打たれたらしょうがない」井之川昇平編集委員の野球百景
プロ野球取材歴20年以上の井之川昇平編集委員と各球団の担当記者が、取材秘話などをつづる新企画がスタートする。初回は井之川編集委員の「野球百景」。4日のヤクルト戦で今季初登板に臨んだ広島・大瀬良大地投手(32)の内面に迫る。(随時掲載) 途中から、1球1球のコースなど細かいデータはスコアブックに記すのをやめた。この日の大瀬良の投球は、そういうテーマじゃないな、と感じたからだ。 近年の広島・大瀬良大地投手は、上手にかわす技術が目立った。だが、今季初登板の4日のヤクルト戦(マツダ)は逆球になってもお構いなし。丁寧さは二の次で、直球も変化球も全力投球。投球後につんのめったりもするほど、マウンドで跳びはねるようにして投げていた。技巧派になりつつあった32歳が、10代の暴れっ子のようだった。 「悔いを残したくなかったんです。1球も後悔しないように投げました」。1年が始まったばかりなのに「悔い」? 試合後の大瀬良の強い言葉に戸惑ったが、ほほえんで説明してくれた。「若い時はこういう気持ちで投げてたんですよね」 昨年の最終登板にさかのぼる。CS最終ステージ第2戦(対阪神)のマウンドで、数え切れないほどガッツポーズしていた。実はこの時、右肘に痛みがあり、手術を受けることが決まっていた。「シーズンの最後になるかもしれないし、じん帯が切れさえしなければ、腕がどうなってもいい」という覚悟だった。7回1失点で試合は敗戦。だが、気迫を込めて投げる中で、薄れかけていた闘争本能が呼び覚まされた。 昨年は2年連続1けたの6勝で、11敗は自己ワースト。衰えとは言わないものの、年々、尻すぼみの感は否めなかった。だが、今年の初登板は、右肘手術明けの不安どころか、最近の成績の下降傾向も忘れさせた。5回まで4安打無失点で、コースが甘くても凡打やファウル。打てるもんなら打ってみろ、という魂が打者を威圧していた。 6回1死満塁でサンタナに許した先制打は、0ボール2ストライクからの甘い球だった。禁物のコントロール“ミス”であることは、大瀬良も百も承知している。「でも、目いっぱい力を込めて打たれたらしようがない、というぐらいの気持ちで投げたんで」。“ミス”ではあるが「悔い」はない。この回途中で降板して3失点だったが、チームが逆転勝利したことも加わって、野球少年のような充足感に包まれていた。 私も投球を堪能した。「気持ちが伝わってきた」と素直な感想を伝えると「1人でもそう思ってくれたら、投げた甲斐があります」と笑顔で返してくれた。やはり気迫あるプレーは野球のだいご味―。そのことを今年の大瀬良は伝えてくれる。(編集委員・井之川 昇平) ◆JERAセ・リーグ(4日・マツダ) ヤクルト 000 003 000-3 000 000 24×-6 広 島 (ヤ)高橋奎、●清水、嘉弥真、エスパーダ―中村 (広)大瀬良、塹江、コルニエル、〇中崎、S栗林―会沢、坂倉 [二]サンタナ(ヤ)、会沢、野間、松山(以上広)
報知新聞社