これがマンション!? 建築家兼陶芸家がリフォームを手掛けた現代版「竪穴住居」
東京を本拠地として各地に複数の拠点をもつオーナーのMさんが自身の故郷である富山で手に入れたマンション空間は、この得難い立地が決め手だったそうです。 【写真集】これがマンション!? 建築家兼陶芸家がリフォームを手掛けた現代版「竪穴住居」 築40年以上が経過していた空間のリノベーションを手掛けたのは、金沢と東京を拠点にしている建築家で陶芸家の奈良祐希さん。同じ北陸出身で以前から親交があり、アートに造詣の深いオーナーは、奈良さんの陶芸作品の熱心なコレクターでした。依頼に際し、Mさんが奈良さんへ伝えた要望は、たった2つ。「内部からでもこのロケーションが感じられる場所にしてほしい」。そして、「これからここに招く、たくさんの大切な方に自分の故郷を紹介する際、もてなしができるような空間にしてほしい」ということでした。
オーナーの故郷・富山のロケーションを尊重
キッチンの窓からは立山連峰や神通川、そして近隣の護国神社の社殿が一望できます。「最初にMさんとここに来て景色を見たとき、偶然にも白サギが飛んでいて感動しました。Mさんにとって、このロケーションが何よりも大事なんだなと思ったんです」と奈良さん。
目指したのは「原点に還る」ための穴倉のような家
依頼を受けた奈良さんは、まずは徹底的に富山の歴史、風土などをリサーチ。完全にスケルトンの状態にした空間に身を置き、検討しました。 「あるときエントランスからエレベーターに乗り、上階のこの部屋に入るというシークエンスが僕には洞穴に入っていくような感じがしたんです。そのように見立てると、土の洞窟というのが、この場所にふさわしいのかなと思えてきました。ドアを開けた瞬間にそこが建築なのか自然なのかわからないような、新しい自然が存在している空間です」と奈良さんは語ります。
インパクト大の「竪穴住居」的な空間は自然界に存在する曲線を強調!
実は富山は古代に土葺きの竪穴住居が多数存在し、この付近では日本最大級の遺跡も発見されています。奈良さんは空間を“形づくる”ことを意識しながら、土で模型をつくりスタディを重ねる独特の手法で設計を行うアーティスト。陶芸家らしいこの工芸的で実直なアプローチは、古代の住居づくりと共通しているようにも感じられます。 〈写真〉玄関を入るといきなり穴倉のような土壁の空間が現れる。
縁の深い素材や地元の秀逸な職人技が結集
画一的になりがちなマンションリノベーションにおいて、建築と陶芸が一体となっているような新しい世界を創造したい。そんな思いでこの地と向き合ったプロジェクト。地元ゆかりの素材や技術を用いることもごく自然に定まっていきました。地元の職人による左官仕上げで建材もほとんどが富山県産や北陸由来のもの。奈良さんの陶芸作品も空間に華を添え、Mさんがゲストと共に原点回帰できる唯一無二の場となっています。