「高齢者が亡くなり、成人向け雑誌が売れなくなったら書店は終わり」…人口1万4000人の町に唯一残った書店の店長が語る
本を並べているだけで売れる時代は終わった
羽後町は著しい少子化が続く。2000年に128人だった出生数は、昨年は46人。町議会議員も務める阿部店長は「目を覆いたくなるほど落ち込んでいる」と話す。少子化の煽りを受け、屋台骨を支える漫画雑誌ですら深刻な落ち込みである。特に深刻なのが少女漫画雑誌という。 「もっとも売れていた少女漫画雑誌は、数年前は月20冊売れていたけれど、今月は1/3くらい。そのほかの少女漫画雑誌でも取次が月10冊は回してくれるけれど、ぜんぜん売れないので返本率が凄いんです。羽後町の少子化の影響をもっとも受けているのが、対象年齢が低い少女漫画なのかもしれません」 本を店頭に並べているだけで売れた時代は終わった。書店は薄利多売のシステムゆえに、通販で遠方の顧客向けに売るのも、個人経営の書店ではAmazonには太刀打ちできないジレンマもある。一連の状況を鑑みた阿部店長は、あらゆる分野で地域の人たちを相手にした商売は成り立たなくなるとみている。
中小の書店を切り捨てていいのか
「書店業界が、今後は経営体力がある大型店に集約されていくのは間違いありません。出版社でも、取次を経由して流通させる旧来の手法を問題視している社員も少なくないと聞きます。単純に考えても、取次を通さずに直に卸せば出版社の利益は増える。流通させている間に本が汚れたり、日焼けするなど、劣化が進むデメリットも少ないですからね」 こう阿部店長が話すように、利益を考えれば、地方の中小の書店を切り捨て、売上を出す都市部に取り扱い店を集約させた方が合理的であるのは間違いない。おそらく今後は、出版社が直に書店と取引し、大型店に優先的に販売を認めるパターンが増えてくると考えられる。その予兆は既にあると阿部店長が言う。 「人気作家の新刊などは大手書店にしか入荷しなくなり、必然的に地方の中小書店は衰退していくでしょう。そして、品物がそもそもない上に取り寄せもできないとなれば、書店まで足を運ばなくなるという悪循環が生まれてしまいますね」 一方で、取次があるおかげで、全国のどんな地方の書店であっても本が手に入るシステムが確立されてきたのは事実であり、日本の文化水準の向上に貢献したのは事実ではないか。また、日本中どこでも漫画が読めたことは、漫画家の新人の発掘と育成にも貢献したといえる。これほどのシステムを、なくしていいのだろうか。