小野賢章、芸歴30年で変化したオーディションへの考え方 「一喜一憂してもしょうがない」
仕事の数だけ、そこにはドラマがある。これまで『SHIROBAKO』『サクラクエスト』などの“お仕事シリーズ”を手がけてきたP.A.WORKSの最新作『駒田蒸留所へようこそ』で描かれるのは、知られざるジャパニーズウイスキーの世界だ。 【写真】小野賢章インタビュー撮り下ろしカット(4枚) 物語は、先代の父が亡くなった後、実家の駒田蒸留所を再興しようとする若き女性社長・駒田琉生と、蒸留所の取材に来たばかりの夢もやる気もない新米編集者・高橋光太郎の出会いから始まる。 小野賢章演じる光太郎の発言は、仕事における「やりがい」とは何かを今一度考えさせられるような印象的なフレーズばかりだ。今年で芸歴30年を迎えた“その道のプロ”である小野は、何を考えながら本作のアフレコに臨んだのだろうか。【インタビューの最後には、サイン入りチェキプレゼント企画あり】 ■「もうずっと演技で生きていくんだ」って思いながら生きてきた ーー本作では真っ直ぐにウイスキーに向き合う琉生と、彼女をうらやましく思いつつ、やるべきことを見いだせない光太郎の“仕事への向き合い方”が描かれています。小野さんは光太郎の仕事観についてどのように感じていましたか? 小野賢章(以下、小野):共感できる部分はかなりあったと思います。「いきなり言われても困る」みたいな戸惑いとか。例えば、突然前フリもなく「医者を演じて」って言われても「わかんないよ!」ってなるじゃないですか(笑)。光太郎って、いい意味でとにかく普通の人なんですよね。ビジュアルもですし、舞台設定も現代だし。作品そのものがリアルな感じなので、自然な演技を大切にしていました。 ーードキュメンタリーにも近い感じがあります。 小野: 自分の知らない世界をどんどん知っていくドキュメンタリーっぽさがありますよね。どんな仕事でも何もわからない状態で飛び込んでいくのはかなり不安だし、フラストレーションがたまると思うんです。でも仕組みがわかりだすと楽しくなって、やりがいを見つけられるというか。そういうやりがいを、光太郎は感じていたと思います。 ーー今回のアフレコ、小野さんはあとから収録されたそうですね。 小野:そうなんです。 僕が収録の順番としては一番最後で。他の方のお芝居を受け取ってそれをちゃんと返せば、成立するだろうとは思っていました。だから演技面では、特に自分でガチガチにプランを練ってどうこうしようってわけではなく。ただ、一般職に就いたことがないなりに、「(光太郎が働く)オフィスってこんな感じなのかな?」とは考えたりもしました。 ーーP.A.WORKSの「お仕事シリーズ」ではさまざまな業界の裏側を描いていますが、小野さん自身が興味のある仕事、裏側をお仕事アニメとして観てみたい職種があれば教えてください。 小野: 建築ですかね。ものすごい高いビルの上に、よくキリンみたいなクレーンがあるじゃないですか。「どうやって乗っけてるんだろう」とか気になります。あとは去年地元の結婚式で、同じテーブルになった方が「鉄を売ってます」って言ってて。詳しくはわからないですけど、そういう方々が建設業界へ鉄を何トンも売っているのかもしれない。 ーー実は内容をよく知らない仕事ってたくさんありますよね。 小野: そうなんですよね。あと国の重要文化財に関わる職業とか、ピックアップして欲しいなと。僕、神社が好きなんですけど、修復の作業を担当する人が全然足りていないって、何となく聞いたことがあって。技術を持った人がどんどん少なくなってる部分をピックアップして、「今までその仕事について知らなかったけど、作品をきっかけにその道に進みました」みたいなことが少しでもあれば、素敵ですよね。 ーーちなみに小野さんは、演技のお仕事やアーティスト活動以外のお仕事だったら何の仕事についていたと思いますか? 小野: 難しいですね。僕は「もうずっと演技で生きていくんだ」って思いながら生きてきたので、他の選択肢を考えたことがなかったんです。だから、役者じゃなくても近い領域にいたような気がします。 ーー作品に参加されてからウイスキーへのイメージは変わりましたか? 小野:より身近になった気がします。映画でも光太郎が居酒屋でウイスキーを頼んでみるシーンがありますが、あの心理、よくわかるんです。普段僕はあまりお酒を飲まないのでハイボールにはなっちゃうんですけど、実際に飲みました。今度はお取り寄せ系のやつとか買ってみて、作り手の思いをより近くで感じたいです。 ーーあのシーンは光太郎の成長も感じられる場面でした。仕事とはいえ、接点ができるとより深く知りたくなりますよね。 小野:それはあると思います。それこそ過去にバスケのBリーグの選手と対談のようなお仕事をさせてもらった機会があったのですが、繋がりができるとその選手が所属しているチームを自然と応援したくなるし、実際SNSで繋がって観戦しに行ったんです。自分に繋がりだったり、関係ができると応援しやすくなりますよね。 ーー「普段はあまり飲まない」とのことですが、本作をはじめ『小野賢章のおののみ』や『どっぷりサーモスチャンネル』のナビゲーターなど、小野さんはお酒のお仕事にご縁があるような気がするのですが……? 小野: 何でですかね? 昔こそ「毎日飲んでそう」とは言われてました(笑)。今はもう、そんなに飲むイメージはないと思うんですけど。ただ嫌いでもないので、1~2杯ですが全然飲みますよ。楽しく飲めそうな雰囲気があるんですかね(笑)。 ーー初めてお酒を飲んだときのことは覚えていますか? 小野:最初はピーチウーロンやカシスオレンジ、カルアミルクとかから入った気がします。ビールやウイスキーって、やっぱりなかなか最初はハードルが高かったので。でも台湾に行ったときに飲んだ青島ビールが美味しくて。それからビールも飲めるようになりました。 ■小野賢章が考える“声優としてのものづくり”の難しさ ーー P.A.WORKSの「お仕事シリーズ」ではものづくりの面白さだけでなく、難しさやシビアさが描かれます。俳優・歌手としても活躍している小野さんが思う声優としてものづくりの難しさはありますか? 小野:どこまでいってもオーディションなところですね。特にメインのキャラクターは、ほぼ毎回オーディションなので。声優は3カ月に1回ぐらい(オーディションという形で)就活してるんですよ。シビアな部分ですよね。ある意味平等であり、誰にでもチャンスがあるから、いい世界ではあるとも思いますけどね。ただ若い才能のある役者の人たちも、どんどん毎年出てきますし、そこで選ばれ続けなければいけない大変さはあります。 ーーオーディションに落ちることに対して、不安を感じる瞬間はありますか? 小野:前よりは感じなくなりましたね。完全には(仕事が)なくならないだろうと、どこかで思ってるところがあるのかもしれない。もちろん「今期は出演少なかったな」って思うときもあれば、逆もあります。時期によって全然違うので、そこで一喜一憂しててもしょうがないというか。そう思ったら、仕事が少ないときに「いっぱい休めてラッキー」って思えるようになりました(笑)。 ーーそう思えるようになったのは、年齢を重ねたことによる変化だったのでしょうか? 小野: それはあるかもしれないです。20代は「とにかくもうどんな仕事でもやろう!」と思ってたので。そのモチベーションの中で仕事がないと「こんなに仕事したいのに、仕事がない」「このままオーディションに落ち続けて、人生終わるのかな」みたいな不安を感じたこともありました。でも同世代のみんなが頑張ってたから、「俺も頑張らなきゃ」って思って。毎回役を取り合うライバルでありつつ、背中を押してくれる存在ですね。 ーーそれこそ、小野さんは舞台俳優のお仕事を声のお仕事より先にご経験されていますが、最近では「声優の仕事のボーダレス化」も話題に上がっています。そんな今の声優業界をどう見ていますか? 小野:時代が僕に追いついてきましたね。冗談です(笑)。でも今から声優になろうという人や新人の若い子たちは、本当に大変なんじゃないかな。やらなきゃいけないことが多いので。おっしゃる通り、僕は元々ミュージカルの経験があったので、歌にそんなに抵抗があったわけじゃなかったんです。歌を歌えないといけない、イベントは歌唱ありきで、とか、今増えていますよね。でも歌は苦手だけどお芝居したい方もいると思いますし、表舞台には全然立ちたくないけど声の仕事をしたい方もいらっしゃると思います。求められるものの広がりに、まさに時代の流れを感じています。
すなくじら