有給取って“時給”を上げる? 未消化分を給与に換算すると……
今年4月から、年間5日以上の有給休暇の取得が義務化されます。有給取得率がまだまだ低いとされる日本ですが、それを給与額に換算するとどうなるでしょうか。第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。
2017年は全正社員で4兆円相当の未消化
日本の有給休暇取得率は50%程度と先進国の中で最低水準です(2017年)。ブラジル、フランス、スペイン、香港の100%、韓国の90%、米国の70%との比較で大きく劣後しています。有給休暇(以下、有給)は労働者に与えられた権利ですから、それを取得しない、或いは取得させないのは、実質的な「減給」に相当します。そこで正社員の有給未消化分が給与額(現金)に換算していくらになるのか試算しました。
試算にあたって、まず産業別に「1日あたり賃金」を算出します。2017年の「賃金構造基本統計調査」の産業別の所定内給与を1か月の平日数(≒営業日数)である22日で割ることで、産業別に1日あたりの賃金を求めます。これを通常の勤務をした場合に支払われる賃金、つまり「有給休暇1日分」に対する賃金とみなし、次に1日あたり賃金に対して未消化の有給日数をかけることで、産業別の1人あたり未消化有給額を算出します。そして産業別の正社員数を1人あたり年間未消化有給額に掛けることで、正社員全体の年間の未消化有給総額が試算できます。 その結果、17年の有給未消化総額は4兆円相当、正社員1人あたりでは年間13.5万円相当の有給を取得できていないことがわかりました。賃金が増えにくいと言われる現在において13.5万円は決して小さな数値ではありません。名目賃金が満足に増えないのであれば、有給はしっかりと取得し“時給を上げたい”ものです。
今春から年間5日以上の有給取得が義務化
こうした有給取得率の低さを是正する目的もあって、2018 年6月に成立した働き方改革関連法では、2019 年4月1日以降は全ての企業において年10 日以上の有給が付与される労働者に対して、年5日については使用者が時季を指定して取得させることが義務づけられました。 義務づけの対象となる日数が5日と少ないため、これによって直ちに有給取得率が上昇するとは考えにくいですが、有給取得が増加すれば、これまで有給が未消化に終わることを前提に人員配置をしていた企業は、何らかの対応を迫られる可能性があります。新たに人員を補充したり、省力化投資やビジネスプロセスの見直しを検討したりする必要が出てくるかもしれません。また有給取得率上昇によって、企業が体感する人手不足感が一層強まれば、人材流出を防ぐ目的で、企業が賃上げに前向きになる可能性もあります。
---------------------- ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。