公務員の安定を捨て新球団くふうハヤテからドラフト指名! 遅咲きの右腕が念願のNPB行きを実現するまでの紆余曲折
不慣れなリリーフで結果が出せない試合が続き、早川にとってはこの1年で一番苦しい時間となった。そんな中でも、辛抱強く課題と向き合えたのは、NPBへ行くという同じ思いを持ったチームメートの存在があったからだ。 「疲れていたり、結果が出なくて、自分が(練習で)気を抜いてしまいそうになったとき『みんなが頑張っているから負けていられない』という気持ちで練習することができました。チームメートでもありますけどライバルでもあるので、お互いに意識しあって、高めあいながら1年間やってこれたのは大きかったと思います」 中村コーチも、この時期の早川から感じるものがあったと振り返る。 「どんな時でも練習を続けられるというところは素晴らしいと思って見ていました。自分の信念がフラフラしてしまうような選手は伸び悩んでしまいがちですが、毎日目的意識をしっかり持って練習に取り組んでいましたし、そういうところも指名につながったと思います」 先発との違いに戸惑いながらも、リリーフに挑戦した約1か月間で徐々に適応していった。その結果、ストレートの平均球速は145キロまでアップし、最速が150キロに達する試合も増えていった。 「ボールの強さも先発の時より出ている感覚はありました。よかった時の安定感にプラスして、リリーフでの出力の出し方にも慣れていって、いい投球ができるようにしたいと思います」 自らの信念を貫く意志の強さと、高い目標に共に挑んだ仲間たちの存在。その2つが苦しみを乗り越える原動力となって、力強いストレートを取り戻し、ドラフト指名にもつながっていったのだ。 「もちろん苦しいときもありましたが、充実した1年になりました。この1年で成長はできたと思っていますが、まだまだ途中だと思っています。スカウトの方からも『まだ全然伸びしろは感じる』と言っていただいて、それがすごく嬉しかったです」 喜びと同時にチーム初のドラフト指名選手となった責任も強く感じている。 「僕が活躍できるかどうかで来年以降、このチームの選手たちへの評価も変わってくると思っています。本当に活躍してチームに恩返しができたらと思っていますし、育成指名をいただいたことに満足せずに、すぐに活躍できるような選手になりたいです」 ドラフト会議当日、共にこの日を目指していたチームメートの姿は静岡の会見場にはなかった。早川以外の選手にはNPB12球団からの調査書が届かなかったこともあり、宮崎のフェニックスリーグで最後の最後までアピールを続けていたからだ。後日、静岡に戻ってきた時、こんなやりとりがあったとのちに明かしてくれた。 「『次は自分がNPBに行きます』とか『早川に続けるように来年がんばるよ』とか、そういう言葉をいっぱいかけてもらいました。僕だけではなく、全選手がドラフト指名や、NPBへ復帰するという目標を持って、この1年間戦ってきた中で、みんな悔しい思いを持っていたと思います。それでも、そういうふうに言ってもらえたことが、自分にとっても刺激になりましたし、次に向けて頑張ろうってすごく思いました」 当面の目標は支配下登録を勝ち取ること。他のルーキーたちとは違い、ファームリーグで1年間を経験したことは大きなアドバンテージになるだろう。チームの将来と共に戦った仲間たちの思いを背負った青年が、来年どんな姿を見せてくれるのか。早川太貴の新たな挑戦が再び始まる。 取材・文●岩国誠 【著者プロフィール】 岩国誠(いわくにまこと):1973年3月26日生まれ。32歳でプロ野球を取り扱うスポーツ情報番組のADとしてテレビ業界入り。Webコンテンツ制作会社を経て、フリーランスに転身。それを機に、フリーライターとしての活動を始め、現在も映像ディレクターとwebライターの二刀流でNPBや独立リーグの取材を行っている。
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