旅行に行きたくなる!『シサム』に『ゴールデンカムイ』『鉄道員』など北海道の魅力が詰まった映画たち
江戸時代前期の北海道を舞台にした『シサム』が公開中だ。まだ北海道が「蝦夷地」と呼ばれていた時代を描く本作は、交易のため蝦夷地を訪れた若き松前藩士がアイヌの人々との絆を紡ぐ壮大なヒューマンドラマ。そんな本作の見どころの一つが、実際にアイヌが暮らした町を含む北海道の景観。美しく、時に険しい自然描写が、映画に幻想的な味わいやスケール感をもたらしている。本作に限らず、北海道を舞台にした作品はこれまで多く製作されてきた。この土地ならではの雄大さを満喫できる名作をピックアップして紹介しよう。 【写真を見る】菅田将暉と小松菜奈もここにいた…『糸』の撮影が行われた函館市の入舟漁港 ■アイヌの暮らしや伝統、文化が感じられる『シサム』 蝦夷地を領有する松前藩の若き藩士、高坂孝二郎(寛一郎)は兄の栄之助(三浦貴大)に連れられ、初めて蝦夷地に足を踏み入れた。高坂家ではアイヌとの交易で得た物品を他藩に売ることを生業としていたのだ。しかし到着して早々、不穏な動きを見せた使用人の善助(和田正人)によって栄之助は殺害されてしまう。逃走した善助を追うなかで瀕死の重傷を負い、アイヌの人々に救われる孝二郎。アイヌの村で介抱され、日々を過ごすうちに、彼らの文化や信仰に心動かされていく。一方、アイヌの間では横暴な和人(=アイヌから見た日本人)に対する反発心が高まっており、一触即発の事態が迫っていた。生まれや風習の垣根を越え、孝二郎は両者が共に生きることができる新たな道を模索していく。 本作の撮影地となったのは、孝二郎が身を寄せる集落のモデルにされた釧路管内の白糠(しらぬか)町。古くからアイヌの人々が暮らしてきた土地で、町名もシラリカ(磯のほとり)というアイヌ語がもとになっている。その名の通り海に面した美しい町で、劇中にも海岸が何度も登場する。町の観光スポットは、アイヌ古式舞踊「フンペリムセ」発祥の地にある馬主来(パシクル)自然公園や、町を一望できる岬にある森東山公園、雄大な山々を望む庶路ダムなど。アイヌ弔魂碑が建つ東山公園の麓にあるアイヌ文化活動施設ウレシパチセ(「互いに育む家」を意味する)ではアイヌ伝統文化が体験できる。スタッフ、キャストはこの町で約1か月にわたるロケ撮影を行なった。 ■北海道を舞台にアイヌの埋蔵金争奪戦が繰り広げられる『ゴールデンカムイ』 アイヌの埋蔵金をめぐる壮大な争奪戦を描いた、野田サトルによる大ヒットコミックを実写映画化した『ゴールデンカムイ』(24)。日露戦争での戦いぶりから“不死身の杉元”の異名を持つ杉元佐一(山崎賢人)は、アイヌの少女アシリパ(山田杏奈)と莫大なアイヌの埋蔵金探しを開始する。そんな彼らの前に、大日本帝国陸軍の鶴見篤四郎中尉(玉木宏)や元新選組副長の土方歳三(舘ひろし)ら最強の敵が立ちはだかる。 雪深い釧路を舞台とした本作。その撮影は北海道をはじめ山形や長野、新潟など雄大な自然が残る日本各地で行われた。そんななか、ひときわ目を引くロケ地が札幌市厚別区の「北海道開拓の村」。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンと同じ54ヘクタールの土地に、明治から昭和初期に建築された北海道各地の建造物を移築復元・再現した野外博物館で、雪だまりの残る目抜き通りに木造の建物が並んだ光景は西部劇を思わせる。スタッフから贈呈された馬そりや映画の小道具の展示も行われているとのことで、聖地巡礼の際はお見逃しなく。 ■北の歓楽街、ススキノを探偵と相棒が駆け巡る「探偵はBARにいる」シリーズ 大泉洋演じる私立探偵と松田龍平扮する相棒のコンビが、ススキノを舞台に活躍するハードボイルドミステリー。行きつけのBAR「ケラーオオハタ」に入り浸る探偵と相棒兼運転手の高田。ススキノの街を知り尽くす彼らのもとには、なぜか面倒なワケアリ仕事が次から次に舞い込んでくる。1970~80年代のB級アクション映画を彷彿とさせる毒気や、主演コンビのコンビネーションで話題を呼んだ痛快作。2011年公開の第1作に続き、『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』(13)、『探偵はBARにいる3』(17)とシリーズ3作が製作された。 北の歓楽街ススキノ。札幌市中央区のすすきの交差点を中心とする一帯は、新宿の歌舞伎町、福岡の中洲と並び三大歓楽街として知られている。ニッカウヰスキーのネオン看板やノルベサ屋上観覧車など街のランドマークが画面のあちこちに顔を出す。そんな本作の巡礼で訪れたいのが、探偵と高田がたまり場にしている「ケラーオオハタ」。撮影に使われたのはスタジオに建てたセットだが、マスターを演じていた桝田徳寿はススキノ狸小路にある「SAKE BAR ニューかまえ」のカウンターに立つリアルなバーのマスターなのだ。俳優兼マスターをしている桝田のカクテルを飲めば、探偵気分に浸れちゃう? ■撮影された駅や家が保存されている『鉄道員 ぽっぽや』&『幸福の黄色いハンカチ』 直木賞に輝いた浅田次郎の短編を映画化した詩情あふれるヒューマンドラマ『鉄道員 ぽっぽや』(99)。北の果てにある小さな終着駅で、佐藤乙松(高倉健)は鉄道員(ぽっぽや)として生きてきた。ある日、孤独な彼の前に一人の少女(広末涼子)が現れる。 本作に登場する幌舞駅は、JR北海道根室本線の幾寅駅が使われた。撮影当時は無人駅で、駅舎は古びた外観に改装され撮影された。しかし、2016年の台風で被災し幾寅駅を含む一部区間が運休となったことで、そのまま22年に廃駅になった。ただし、駅舎は映画の雰囲気のまま保存され、廃車になったキハ40 764号気動車の一部分も設置されて聖地になっている。 『鉄道員』以外にも「網走番外地」シリーズ、『駅/STATION』(81)など北海道が舞台の映画に数多く出演している高倉健だが、健さん=北海道のイメージを定着させたのが『幸福の黄色いハンカチ』(77)だ。網走刑務所から出所した元炭鉱夫が、偶然出会った若者たちと網走から自宅のある夕張の炭鉱町まで車で旅をする物語。撮影に使われた家は「幸福の黄色いハンカチ想い出ひろば」として、黄色いハンカチののぼりと共に夕張市に保存されている。 ■実在した珈琲店で撮影された『しあわせのパン』 洞爺湖のほとりでパンカフェを営む夫婦と客たちの交流を通し、日常の中にある幸せを描いたハートウォーミングストーリー。東京から月浦に移住し、小さなパンカフェ「マーニ」を始めたりえ(原田知世)と水縞(大泉洋)。宿泊施設も備えたマーニには近所の常連さんから遠方の旅行客まで様々な人たちがやって来る。 平原の一本道に建つマーニは、裏手に湖、右手に木立ちを望む絵に描いたようなロケーションだが、撮影に使われたのは実在したカフェ。珈琲店「ゴーシュ」がそこ。マーニは2階が宿泊施設だったが、ゴーシュはカフェのみで、隣に宿泊施設「ゴーシュRIN」がある(2020年オープン)。2階建ての建物は1棟貸し切りで、定員は1名のみ。珈琲店はすでに閉店したが、一人で静かな時間を楽しみたい人はゴーシュRINをチェックしてはいかが? ■北海道各地で撮影され、離ればなれになった男女の運命的な恋を描く『糸』 札幌出身の歌手、中島みゆきの同名曲をモチーフに、菅田将暉と小松菜奈をW主演に迎えたラブストーリー。運命的に出逢いつつ離ればなれになった恋人たちを描いて大ヒットした。撮影は上富良野や函館ほか各地で行われ、北海道の風景が詰まった作品になっている。高橋漣(菅田)と園田葵(小松)は13歳の時に恋に落ちるが、葵が姿を消したことで2人の初恋は終わりを告げた。8年後、友人の結婚式で東京を訪れた漣はそこで大学生になった葵と再会するが…。 上川管内上富良野町出身の漣。彼の回想シーンの撮影は、おもに富良野町とその周辺で行なわれた。家出した漣と葵が泊まるのは南富良野町の「かなやま湖畔キャンプ場」。上富良野町役場や「深山峠ラベンダーオーナー園」なども使われた。質素な葵の実家は、美唄市南美唄町にある市営団地周辺。最重要スポット「子ども食堂」は、同じく美唄市の南美唄町にある空き住宅の一角が使われた。撮影後も建物には子ども食堂の看板が掲げられており、いまも映画ファンが訪れているという。漣と葵がガラス越しに電話するシーンは函館空港。クライマックスのフェリー乗り場は津軽海峡フェリー函館ターミナルで、どちらも2人の想いがあふれる名シーンを飾った。 ここでピックアップした作品以外にも『北のカナリアたち』(12)や『許されざる者』(13)ほか、北海道を舞台にした作品は数多い。広大な景色や厳しい寒さなど北海道らしさを生かしたドラマチックな作品たちに触れてみてはいかがだろうか? 文/神武団四郎 ※「シサム」の「ム」は小文字が、山崎賢人の「崎」は「たつさき」が、アシリパの「リ」は小文字が正式表記