市川染五郎、創造への渇望
19歳になったばかりの歌舞伎俳優・市川染五郎が最新スタイルに挑戦。エッジの効いたさまざまな表情を魅せてくれた。また、芝居に向かう姿勢やクリエイティビティな感性を磨くコツなどを語ったインタビューも必読だ。 【写真の記事を見る】最新ファッションを華麗に着こなす。
第47回日本アカデミー賞新人俳優賞
「各ブランドの個性が表れていて、どれも素敵で面白かったです。普段、よく黒を着ているので、かっちりしたジャケットに遊び心を加えたコム デ ギャルソン・オム プリュスの服が好きでした」。歌舞伎の世界で数々の美しい衣装を目にしてきた八代目 市川染五郎は、服も自然と舞台に紐づけて考えてしまうようだ。 「作ってみたい舞台についてあれこれ妄想するのですが、セットや衣装など、ビジュアル面から物語を思いつくこともあります。いろいろな服を着せていただきながら、このシルエットならば、こういう人物に着せてみたいなと考えたりしていました」 今年、映画『レジェンド&バタフライ』の森蘭丸役で第47回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。 「初めて出演した実写映画でしたので、評価していただけたのは素直に嬉しかったです」。3月の授賞式にはハットを被り、エレガントな黒のスーツで登壇し、注目を集めた。「デヴィッド・ボウイが1975年のグラミー賞授賞式のプレゼンターを務めた時のファッションに憧れて、いつか自分の大切な場面では、あのようなスタイルをしてみたいと思っていました。あの日のために金髪にしたんです(笑)。映画のタイトルにちなんで、胸には蝶のブローチをつけました」 公開中の劇場版『鬼平犯科帳 血闘』の主演は、父の十代目 松本幸四郎。池波正太郎生誕100年を機に1月にスペシャルドラマがテレビ放送され、令和の新たな『鬼平』シリーズがスタートした。染五郎は若き日の鬼平、「本所のテツ」と呼ばれた長谷川銕三郎を演じている。 「やんちゃな役でしたので、激しい殺陣がありました。刀ではなく、木の棒で相手を殴る場面があり、斬るのとはまるで違う動きになるので難しかったです。銕三郎は、性格的には自分と似ているところはあまりないのですが、あまり作りこまずに自然にできたのかなと思います。すごく愛着の湧いた、好きな役になりました」 荒々しい銕三郎を表現するにあたっては、染五郎ならではの苦労した点もあったという。 「少しでも自然な浅黒さが欲しいなと、生まれて初めて日焼けサロンに通いました。ただ、もとが色白なので、それでも黒さが足りなくてさらにドーランを塗っていました。色黒なのも悪くないなと思いました(笑)」 子供の頃から歌舞伎が大好き。歌舞伎も時代劇も幅広く多くの人に観てもらいたいという強い想いがある。 「父もよく話していますが、時代劇も歌舞伎もある種のファンタジーとして見られるジャンルです。どうしても堅いイメージがあり、歴史を知らないと理解できないのでは?と身構えてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、全くそんなことはなく、あくまでエンターテインメントです。今回の『鬼平』シリーズは、照明やカメラの撮り方も、新しさを追求していますし、現代の『鬼平』を純粋に楽しんでいただけたらと思います」 最新号のテーマは『グローバル・クリエイティビティ・アワード2024』。染五郎はどのような人やモノに、クリエイティブを感じるのか尋ねてみた。 「僕が影響を受けた、クリエイティブだなと思う人は、やはりデヴィッド・ボウイやマイケル・ジャクソン、沢田研二さんですね。少し世代が上になってしまいますが」 刺激を受けるクリエイティブなモノとしてはゲームを挙げてくれた。 「僕は実はゲーム好きなのですが、『FORTNITE』というオンラインゲームにコンテンツを作れるクリエイティブモードがあって、自由に素材を使い、実際にある建物を再現したり、アーティストの方がバーチャルライブをなさったりしているんです。そこでバーチャル歌舞伎を作って遊べるようにしたら面白いのではないかと考えています」 祖父の二代目 松本白鸚は歌舞伎以外にもミュージカル俳優のレジェンドとしてその道を開拓してきたし、父の幸四郎は劇団☆新感線などの現代劇で幅を広げてきたほか、コロナ禍では『図夢(ずぅむ)歌舞伎』を生配信した。挑戦する一家の一員らしい、新しい発想である。 「時代の新しいものを取り入れられる柔軟性の高さが、歌舞伎の強みだと思います。歌舞伎の中にもさまざまなジャンルがありますが、リアリズムを追求する演劇ではないんですよね。現実にはありえないような髪型や衣装、派手な化粧をした人物も登場します。悪者退治など、勧善懲悪の物語も多くありますし、悪者の正体が妖怪だったなど、ゲームの世界とも相性が良い気がします。非現実に〈跳べる〉演劇なので、面白く創れるのではないかなと思っています」。 3月に19歳になった。10代最後の年齢について感想を尋ねてみると、特に意識はしていないと答えた。 「19歳になったから、20歳になったから急に何かができるようになるわけではありませんし、そういう数字的なことよりも、いつどのような作品のどんなお役が来ても、すぐに対応できるようにというのを目標に挑戦し続けたいなと思います。人でも役でも作品でも、新しいものに出合うたびに自分のハードルを上げていきたいです。瞬間瞬間に感じたものを吸収して、自分の中に落とし込み、それをパワーに限界値を上げ続けたいですね」 語り口はとても静かだが、芝居愛は常に燃えており、頭の中はクリエイティブなことが忙しく駆け巡っている。 市川染五郎 歌舞伎俳優 2005年生まれ、東京都出身。09年『門出祝寿連獅子』で四代目松本金太郎を名乗り、初舞台を踏む。18年『勧進帳』で八代目市川染五郎を襲名。22年『信康』で歌舞伎座初主演をつとめた。同年大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の源義高役が話題に。出演映画に『サイダーのように言葉が湧き上がる』(声の出演)、『レジェンド&バタフライ』。『鬼平犯科帳 SEASON1』のドラマが時代劇専門チャンネルにて放送・配信中。劇場版『鬼平犯科帳 血闘』が全国公開中。 文・黒瀬朋子 写真・当山礼子 ヘア・KENSHIN FOR EPO HAIR STUDIO メイク・ANNA @ S-14 スタイリング・高杉賢太郎 @ GQ