落語家・桂竹丸 〝敗者の言い分〟知ればもっと歴史が面白い アマノジャク的に戦国時代を斬った『桂竹丸の戦国ひとり旅』
【BOOK】 「教科書に書かれていることだけが歴史じゃない。違う側面が必ずあるはず」―歴史を愛する落語家の桂竹丸が、大胆かつアマノジャク的に戦国時代を斬った。歴史の表舞台の華やかさだけではなく、闇の部分を知ることで、さまざまな〝人間の業〟がみえてくる。 ◇ ――師匠の語り口そのままの軽妙な文章です 「落語をつくるときと同じ思いが入っているからじゃないかな。とはいえ高座では、強弱によって笑いやメッセージの深さや浅さを伝えることができるけど、文章での表現は少し難しかったね」 ――歴史好きは 「小学生の頃、担任から『頭が悪過ぎる』と言われ、おふくろが週刊少年キングを買ってきてくれて、『振り仮名があるから、これで漢字でも覚えたら』と手渡してくれましてね。そのうちに戦国時代初期の武将北条早雲を描いた連載漫画があってのめり込んだ。それが歴史への第一歩でした。噺家になってからは、古典(落語)に『源平盛衰記』があるので、歴史が落語にならないかと思って幕末・明治期の武士の榎本武揚を題材にした『五稜郭ロマン』をつくって高座にかけたのが楽しくて、以来歴史上人物の落語を創作するようになったんです」 ――題材は主に戦国時代 「戦国は人間臭くて一番面白い時代。裏切りがあり忠義があり、下克上も。世の中は乱れ、何でもありの時代。たとえば、淀君は悪女、武田勝頼はあまり賢くないというのがこれまでの定説ですが、実はそうではないんじゃないのかと。勝てば官軍であり、勝った側から伝わったことが今までの歴史観ですが、それだけじゃないだろうと。負けた側にも負けたなりの理論や正義があるのだから、そこにスポットを当ててみた。歴史の華やかな部分と闇の部分を知ることで、今という時代の良さを認識できるとも思うんです」 ――登場人物5人の選定は 「(第二章の)島津義弘は、西郷隆盛と並ぶ鹿児島の英雄で、もっと知って欲しいという気持ちで選びましたね。(第三章の)武田勝頼は、信玄の息子である二世としての苦労をもっと知りたかった。好きな武将? 私の落語にもある石田三成ですね。天下分け目の『関ヶ原の合戦』では老獪(ろうかい)な家康の前に屈服。三成は理想家です。勝利イコール正義だと信じて戦いに臨んだんじゃないかな。こんなにピュアな心を持った人はいないと思うし、豊臣家にすべてをささげた一生でした。敗北によって処刑されたのは41歳。忠義という言葉がぴったりな不器用な男、三成をわれわれ日本人は知っていたほうがいいですしね」 ――戦国は「淀で始まり淀で終わる」と