精巧偽造書類携え、土地所有者に成りすます 逮捕された「地面師」ドラマさながらの手口
こうして周到に準備された〝クモの巣〟にからめとられたのは、東京都内の不動産会社だった。平成25年12月、この会社の事務所で商談が行われ、健一受刑者らは土地の売却代金として、現金と小切手で1億2300万円をだまし取った。
土地の所有者と称する健一受刑者は、土地取得の経緯や周囲の景観など、本人しか知りえないような情報をよどみなく答えていった。詐取金のうち、三夫容疑者には少なくとも3千万円以上が配分されていたという。
確認に当たった司法書士も見抜けなかった鮮やかな手口だったが、犯行はあえなく露見する。「土地が売りに出る」という情報が流れた結果、本物の所有者のもとに売却意思確認などの問い合わせが殺到。危険を察知した所有者が法務局に不正登記防止を届け出たため、不動産会社の登記申請は却下された。
■摘発と技術進化で低調に
かつては活発に活動していた地面師だが、捜査関係者によると、近年被害申告もほとんどなくなったという。ある警察幹部は「地面師の数は限られている。主だったメンバーはこれまでの捜査で逮捕、起訴され刑に服しており、やる人間がいなくなった」と分析する。
単なる紙でのやりとりだった本人確認書類も、ICチップが埋め込まれた免許証が登場し、手続きの電子化が進んだことで「ニンベン師」が暗躍する余地がなくなってきたことも背景にあるとみられる。
ある不動産関係者は、「地面師も戦後から時代に合わせて手口を進化させてきたが、いよいよやりづらくなったようだ」と話した。(外崎晃彦)