『テニスの王子様』 ズレと違和感の演出
『エースを狙え!』(山本鈴美香、集英社)以降、目立ったものに乏しかったテニス漫画という分野で、1999年から連載され、久しくブームを巻き起こしたのが『テニスの王子様』(許斐剛 、集英社)という作品である。 開始当初から、魅力的なキャラクターと派手な必殺技の応酬で、あっという間に若者たちの話題をさらった。 まるでブーメランのように球が曲がる「スネイク」や、全てを確率論で計算し尽くす「データテニス」などなど、連載開始当初から、現実にもあり得なくない「一見リアルな描写」が魅力を増していたのが事実である。 だが、これらの表現は加速していく。
超人スポーツ的な漫画表現へと変遷
テニスラケットを一発で粉砕する「波動球」、相手のスマッシュを無効化する「ヒグマ落とし」、全ての打球を自分のところに吸い寄せる「手塚ゾーン」など、これは流石に中学生がやるには無理があるのでは……? という、超人スポーツ的な漫画表現へと変遷していくのだ。 筆者は当時、テニス部に所属し練習を重ねていた身として、こうした描写が増えていくことに少し切なさを覚えた。現実的な設定の中で、いかに表現を創意工夫していくかが、スポーツ漫画の醍醐味だと考えていたからだ。 そういう意味では本連載でも取り上げた『スラムダンク』(井上雄彦、集英社)は、徹底的に「リアル」にこだわり描き切ったために、理想系の一つを果たしていたといえる。 だが、ある時から見方が変わり、本作の作品としての秀逸さは、リアルさにあるのではないことを認識してきた。 SNS全盛の現代においては、むしろ徹底的にマーケティングに向いた作品であるということを、身をもって痛感してきたのだ。 この特徴的な本作品、実はSNS上で非常によくバズる、バズる。例えば、続編である『新テニスの王子様』(許斐剛 、集英社)においては、巨大化する能力を持つ敵が現れ、50メートルはあるかと推定される姿となり、コート上で打ち合うシーンが見られるのだ。 そこでの味方サイドのセリフは、「デカすぎんだろ……」。見開き一面で、テニスコートに巨人が現れるシーンでのこのセリフには、「いやいやおかしいだろ!」「反応それで終わりかよ!」などと、ネット上でのツッコミが多々見受けられ話題となった。 実は、SNS全盛の現代においては、このように「敢えて違和感のある部分を作り、ツッコミを待つ」というのが非常に重要になってくるのだ。