杉咲花×若葉竜也『アンメット』9話。圧巻の長回しシーンを振り返る
「目の前の1人を救う」を選んだ大迫
この回の演出を担当した日髙貴士は、「三瓶先生は、私の事を灯してくれました」の台詞は杉咲花によるアドリブであるとブログに記していた。それによって、三瓶がミヤビに近づこうとしたのが一旦押し止められたようにも見え、けれどそのことでこのシーンにリアリティが加わった。『アンメット』原作の作画担当である大槻閑人も、X上で「思わずもらい泣きしてしまいました」と感動を綴っている。ここまでミヤビを生きてきた杉咲の名アドリブと、それを受けた若葉竜也の演技が名シーンを作り出したのだ。 9話では、ミヤビが記憶障害を負うことになった事故の直前、関東医大グループ会長である西島(酒向芳)らが建て替え反対派の買収をしていた様子をたまたま立ち聞きしてしまっていたことが明らかになる。また、記憶障害の原因はノーマンズランドと呼ばれる「誰も手を付けてはいけない領域」にあり、手術はほぼ不可能であることもわかった。「ほんの少しでも希望があればリスクをとってでも治そうとする」三瓶の性格をよく知る大迫は、ミヤビの命を救うため、三瓶をそそのかしてミヤビを亡き者にしようとする西島に歯向かい、警察に西島の悪事を伝える。しかし、西島はすでに三瓶に、ミヤビの真実を伝えてしまっていた。 「目の前の1人を救うか、この先の大勢を救うか」で、三瓶は迷うことなく目の前の1人を、リスクが高くても救おうとしつづけてきた。大勢を救うことをめざしてきた大迫は、「目の前の1人」がミヤビであったことで、初めて「1人」を選んだ。果たしてミヤビは、自分のことについてどんな決断をくだすのだろう。 泣きながら三瓶と抱きしめあった時間のあと、身体を離した瞬間のミヤビはもううろたえた顔をしていて、「ごめんなさい」「どなたですか?」と三瓶に投げかける。この衝撃も含めて『アンメット』9話は忘れられない回になった。来週以降、ミヤビがそもそも自分のことを判断できる状況なのかどうかも、もうわからない。 ●番組情報 『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ) 脚本:篠﨑絵里子 原作:子鹿ゆずる(作)大槻閑人(作画)『アンメットーある脳外科医の日記ー』(講談社『モーニング』連載) 演出:Yuki Saito、本橋圭太 出演:杉咲花、若葉竜也、岡山天音、生田絵梨花 他 プロデューサー:米田孝、本郷達也 主題歌:あいみょん『会いに行くのに』 FOD、Netflixにて全話配信中(有料) ●釣木文恵 つるき・ふみえ/ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。 ●オカヤイヅミ 漫画家・イラストレーター。著書に『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない 』など。この2作品で第26回手塚治虫文化賞を受賞。趣味は自炊。
GINZA